アメリア会員インタビュー



「お客様のあらゆる要求に応える」をモットーに

坂田:フリーランスとしては、取引先を開拓しなければなりませんよね。

中村:はい。とりあえず10社ほどに履歴書を出しました。そのうち5社くらいからトライアルが送られてきて、3社くらいに合格したと思います。仕事獲得は、かなり長期戦になることを覚悟していたのですが、意外にすんなりと通りました。やはりTRADOSを使えたことが大きかったと思います。独立を決めたとき、すぐにTRADOSのライセンスを購入しました。高かったですが、翻訳者としての自分の強みはそれしかないと思っていたので、迷いはありませんでした。合格した会社のうちの1社からすぐにお仕事がいただけたのも、TRADOSが使えたからです。最初の依頼が、勤めていた翻訳会社で手がけていたものにかなり近い自動車関連の文書で、これをうまく仕上げることができたおかげで、その後は一気に受注が増えました。

坂田:1年の修行期間が生きてきましたね。

中村:ちょうどITバブルでローカライズの仕事が増えた時期だったので、TRADOSの経験が生きました。

坂田:もちろんTRADOSのスキルも仕事を得るうえで大きな武器になったでしょうが、それだけではなかったのでは? ご自身で努力したこと、気をつけていたことなどありますか?

中村 :強いて挙げるなら、柔軟な対応でしょうか。自分自身、何の専門分野もなく、経験も乏しいということを最初から認識していましたので、「何か自分の強みになるものはないだろうか」といつも考えていました。自分なりに導き出した答えは、「独身で若く、体力にも自信があるからどれだけでも働ける」ということと、「お客様の要望には柔軟に対応しよう」という気持ちでした。そこで、短納期の仕事や仕様が細かい仕事など、一般の翻訳者が敬遠する仕事を積極的に受けました。


坂田:「お客様の要望に柔軟に対応する」というのは、具体的にはどういうことですか?

中村:例えば、赤字の入ったフィードバックがお客様から来た場合、そこには、お客様の好みの文体や表現が反映されています。それらが自分の好みでなかったり、自身のスタイルに反していたりしても、できるだけお客様の好みに合わせること、そして常に敏感なセンサーを働かせて、お客様の嗜好や意向を嗅ぎ取ることを意識していました。

坂田:翻訳者として駆け出しの、実績を積む時代というわけですね。

中村:それから、翻訳以外の仕事も積極的に引き受けました。多かったのは、大きなプロジェクトで使用される翻訳メモリやグロッサリーの準備です。支給されたファイルから頻出する語句を抜き出したり、英日が別々になっているファイルを整合して翻訳メモリを作ったりなど、フリーランスの翻訳者であればあまり気が進まない仕事ですが、「できる?」と言われたら、迷うことなく引き受けました。次に多かったのは、トラブルシューティングです。最初に依頼した翻訳者がスタイルガイドやグロッサリーを守れていなかった場合の修正や、TRADOSで加工されたファイルを翻訳者が壊してしまってクリーンアップ(訳文生成処理)できなくなった場合の修復、他の翻訳者が納期を守れそうにない場合の支援といった形で取引先に協力することも少なくありませんでした。他にも、訳し終えた和文原稿を吹き込んで音声ファイルを作成したり、開発中のアプリケーションを実機テスト(動作確認やスクリーンショットのキャプチャリング)したりなど、ありとあらゆる業務を経験しました。

坂田:翻訳の仕事にこだわらずに何でもやったのは、なぜですか?

中村:他にアピールポイントがなかったからです。医薬に詳しいとか、経済学を学び金融機関に勤めていたとか、私にはそのようなバックグラウンドがありません。何もない私にとっては「翻訳以外の仕事もやる」ということでアピールするしかないと思ったのです。当時に比べれば、今はこの種の依頼は減っていますが、無くなっていません。海外の取引先から、トライアル評価を頼まれることが時々ありますし、つい先日も、開発中のある翻訳支援ツールのバグ検出・ユーザビリティ評価を請け負いました。また、2008年より担当しているオープンカレッジの翻訳講座では、15人の受講生を対象に、授業はもちろんのこと、テキストの準備、答案の添削、講座HPの構築とメンテナンス、受講生へのカウンセリングなど、講座にまつわるほとんどの業務を1人でやっています。

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