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持込成功の秘訣
File.006
第1回 学生時代に訳した小作品が翻訳家への夢のはじまり
フランスを拠点に日本の出版社へ持ち込みをする中尾裕子さん
Hiroko Nakao
フランス南東部に位置するアルプスの山々に囲まれた美しい街グルノーブル。中尾さんの一日は、いきつけのカフェで新聞を読むことからはじまる。

フランスの大学を卒業し、昨年からフリーランスの通訳・翻訳者として本格的に仕事を開始した中尾さん。今は学生時代にアルバイトではじめた実務系通訳・翻訳を中心に、サッカー関係の通訳・取材など仕事の幅を広げている最中だ。

そもそも翻訳家になることを夢見るようになったのは、出版翻訳に目覚めたことがきっかけだったという。

大学でフランス文学を学んでいたときのことだ。
「昔から太宰治の大ファンで、太宰の作品や論評を読みあさっていました。そこで、論文の一環として彼の小作品『魚服記』と『吉野山』をフランス語に訳してみようと考えたのです」

訳したものをフランス人の友人に読んでもらったところ、非常に受けが良かった。訳す作業も思いのほか楽しかった。友人の一人、小説家志望の青年が「出版社に送ってみたらどうか」とアドバイスしてくれた。フランスでは作家志望者が自分の原稿を出版社に送るのはよくあることなのだ。

「さっそく大手出版社ばかりを選んで10社ほどに翻訳原稿と企画書を送りました。日本の出版社にも電話をして著作権について話を伺うなど、もう出版する気満々だったんです。でも……」

フランスの出版社はボツになった企画書を丁寧に手紙を付けて送り返してくれる。最後の頼みの綱だった出版社から分厚い封筒を受け取ったときは、文字通り肩ががっくりと落ちた。

フランスでの出版は実現しなかったものの、この経験が元になり、いつかは出版翻訳家になりたいという夢が心の中に宿った。

「フランス語の本を日本に紹介するときも、同じように手当たり次第に企画書を送ればいいのかな、と漠然と考えていました。しかし出版業界は“狭き門”というイメージが強くて、なかなか行動に移せずにいました」
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