持込成功の秘訣
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第1回 近所の本屋に通って見つけた1冊を持込出版
肩肘張らずに自分の"好き"な気持ちを大切に翻訳し続ける三辺さん
Rituko Sanbe

児童文学翻訳者として、そろそろ10年目を迎える三辺律子さん。年間6、7冊の翻訳を手がけ、また大学で翻訳の授業も受け持っている三辺さんに、ご自身の持ち込み体験について話を聞いた。

三辺さんが自分で持ち込んで初めて採用された作品は、2003年に早川書房から発売された『竜の王女シマー』(ローレンス・イェップ著)だったという。

「この原書は、まだ翻訳家として仕事が少なくて時間があった頃に、近所の本屋で見つけたものです」

その書店は、近くにインターナショナルスクールがあったことから、学生向けの洋書の品揃えが豊富だったそうだ。

「通ううちに店長さんと親しくなり、どんな本が売れているか教えてもらうようになりました。売れ筋の原書がわかると、今度はその翻訳書が出ているかどうか、店長さんに手伝ってもらいながら調べたりして。さすがに人気のある本は、9割方は翻訳書が出ていましたが、その中で、読んでみて面白く、かつ翻訳本が出ていないのが、唯一この本だったんです」

ちょうど世の中はハリー・ポッターの人気で、ファンタジーブームに火がつき始めた頃だった。1社目では断られたものの、2社目の早川書房ではよい返事がもらえた。

「早川書房さんは"ハリネズミの本棚"という子ども向けの新しいシリーズをちょうど立ち上げたところで、タイミングがとてもよかったんです。それに、私は子どもの頃からファンタジー系のお話が好きでした。自分が翻訳家になりたいと思ったときにファンタジーブームが到来したのも、本当に運が良かったとしかいいようがありません」

遠慮がちに話す三辺さんだが、本の内容の話になると俄然目の色が変わる。

「竜の社会からはみ出した竜の王女シマーと孤児の少年ソーンがいっしょに旅をすることになり、次第にお互いを認め合うようになっていくのですが、実はこの本の著者自身が中国系アメリカ人でとしてアメリカ社会の中で疎外感を抱えているんです。その気持ちをストレートではなく、ファンタジーとして描いている。孫悟空を思わせるサルが登場するなど東洋風の味付けも魅力的で、本当に翻訳したい、素敵な作品だと思いました」

三辺さんが好む本にはしっかりとした基準がある。

「人種差別はいけません、とストレートに言うのではなく、いろんな意味で差別をされている人が出てくる物語を読むことによって創造力を養うというか、そういうストレートではない、含蓄のある空想のお話が好きなんです」

他にも持ち込みが成功して出版された本がいくつかある。

「エヴァ・イボットソンという作家の作品も、持ち込みで採用していただいたものです。『ガンプ 魔法の島への扉』と『幽霊派遣会社』(共に偕成社)。自分が好きで、どうしても訳したいと思って持ち込んだものは出版まで到達する確率が高いですね。これは売れそうだから、と持ち込んだものの方が通らなかった気がします。真っ白なところから持ち込むのは、どれだけ自分が面白いと思っているか、それがいちばん重要な気がします」