【アメリア】Flavor of the Month 30 中 純子さん
読み物
Flavor of the Month
<第30回>  全5ページ


語彙を増やすためにひたすら好きな本を読み続けました
坂田:話は遡りますが、翻訳をはじめる前、育児をしながら英語の勉強を再開して、英検1級を目指していたとおっしゃっていましたが、英検1級は合格なさったのですか?

:はい、約2年間勉強して一発で合格しました。とはいえ、実は大学3年生の時に受けて、全然歯が立たなかったので、二度目なんですが。

坂田:その時の勉強法を教えていただけますか?

:勉強法ですか? 特別なことは何もしていないんですよ。参考書はぱらぱらとめくりましたが、それ以外は本当に独学で、辞書を引きながら英語の本を読んだだけなんです。ただ、量をこなしただけ。

坂田:どのくらいお読みになったんですか?

:まず、アガサ・クリスティから読み始めました。彼女の英語は、俗語が出てこない、すごくきれいな正統派の英語でしょう。だから何となく読みやすいかなと思って。作品数も多いので読み続けられるし。(両手を広げて)これくらい読みました。

坂田:1m以上ありますね!

:それだけ読んだら、いいかげん飽きちゃって、次は何を読もうかなって。ほかには、映画のノベライゼーションとか、スティーブン・キングとか……。とにかく有名なもの、目に付いたものなど、手当たりしだい読みました。

坂田:サスペンスものがお好きなんですか?

:はい、好きですね。私、ロマンスがダメなんですよ(笑)。女探偵もの、サラ・パレツキーやスー・グラフトンといった女主人公が活躍するシリーズもいっぱい読みました。格好良くて大好きです!

坂田:次がどうなるのかワクワクしながら、どんどん読み進めていくという感じですね。

:実は、私なりの読み方があるんですよ。辞書を引きながら読むと言ったでしょう?

坂田:ぜひ、教えてください。

:ただ、ぼーっと読んでたら眠くなるんです。右から左に抜けていって、ぜんぜんストーリーが頭に残らない。しかも、当時は子どもが小さかったので、細切れの時間しかとれないでしょう。だから、まず黙読で読んでいって、わからない単語に線を引くんです。そうして30ページぐらい読んだら、次は辞書を引きながら読み返す。その時、ノートを3分割して、いちばん左の欄に線を引いた単語、真ん中の欄に辞書に載っている訳語を書いて、右の欄にその単語が出てきた文を書き写していくんです。

坂田:文章を書き写すのはどうしてですか?

:最初は“この単語がわからないからこの文がわからないのだろう”と思うでしょう。でも、その単語の意味を引いても、まだ文章全体の意味が見えてこないことがよくあるんです。実は、最初に辞書を引いた単語ではなく、よく知っている単語が熟語になっていたり、知らない意味で使われていたりしていて、だから文章の意味がわからなかったりもする。そういうことが文章を書き写していくうちに発見できたんです。

坂田:ただ、知らない単語の意味を引くだけでなく、文章を理解するためにほかの単語もどんどん辞書を引くことになるわけですね。

:そう、この意味はわかったけど、ここがわからないから、全体がわからないのかもしれないと思ってまた辞書を引くでしょう。そうやってようやく一つの文章の意味がわかってくる。それを続けていったんです。最初、ノートに書くことは、ただ読んだだけではなく勉強したんだという結果を残したくてはじめたことだったのですが、結果的に読解力を高めることができました。でも、もちろんこのやり方でもわからない文章はいっぱいあったんですよ。それでも、これだけの作業をしたら、この1冊は終わりというふうに自分で区切りをつけました。このやり方で読んでいくと、例えば、夜中に寝転がって読んでも、翌日、辞書を引きながら読み返すので、自分の中でストーリーを追い続けられるでしょう。すると、読書自体も楽しいし、ボキャブラリーも増えるし、読む速度も速くなっていくんです。これをずっと続けているうちに、だんだん英語の語感がそのままにすーっと頭に入ってくるようになりました。そうすると読むことがさらに楽しくなっていく。最初は苦痛だった英語を読むことが、だんだん気持ちよくなってくるんです。

坂田:では、その頃は、1日をずーっと本を読みながら生活をしているような感じだったのですか?

:そうですね。単語を1つ調べたら子どもの世話をする、カレーを煮ながら少し読む、といった感じ。ちょこちょこ時間を見つけて、ちょっとでもチャンスがあれば本を読んでいました。

坂田:読むうちに、どんどんそれが楽しくなっていった?

:そう、読むことが面白くて。とにかく、自分の読みたいものだけを読んでいました。読みたくないものは続かないと思ったので。

坂田:では、途中で読むのを止めた本もあるのですか?

:ごく稀にありますかね。でも、98%ぐらいはこのやり方で読み通しました。私、途中で投げ出すのはすごくいやなんですよ。これを、下訳の仕事を始めるまで、2年間ぐらい続けました。振り返るとたった2年間のことでしたが、あの時は勉強しても仕事のあてがあるわけでもなく、出口の見えないトンネルの中をさまよっているような気分に何度もおそわれました。でも、この2年間がすべてのはじまりだったと、いまでも思います。

坂田:その後、英検1級を受けたらすぐに合格したということですね。

:そうです。私は、語彙さえ増えれば、語彙に伴って読解力も上がってくると信じているんです。その語彙というのは読まなければ身に付かないでしょう。2年間、ただ本を読んでいただけで、すごく勉強したというわけではありませんが、それでも1日に数時間ペーバーバックを読めば単語力は付いていきます。そのおかげで、英検1級も1回で合格できたのだと思います。
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