【アメリア】Flavor of the Month 54 ラッセル秀子さん
読み物
Flavor of the Month
<第54回>  全4ページ


子育てで一時休業。でも、それはかけがえのない時間でした

坂田:子育てと仕事の両立は大変だったのではないでしょうか。

ラッセル:1人目が生まれる前は、子どもが生まれてアメリカに引っ越した後も、ペースを落とさず仕事をやっていこうと考えていました。でも、いざ生まれてみると、子育てというのは想像以上に面白く、仕事よりもはるかに楽しいので、自分でやってみないともったいないな、という思いが強くなり、また引っ越しなどでしばらくごたごたとしていたこともあり、結局仕事のペースは大幅に落としましたね。その後、2人目が生まれたときと時期を同じくして、それまではフリーランス翻訳者をしていた主人が会社勤めになり、生活が激変してしまいました。それから数年間はきっぱり仕事はやめました。

坂田:休業するとき、迷いや不安はありませんでしたか?

ラッセル:いろいろと葛藤がありました。友人などの活躍を聞くたびに、何ともいえない気分になりましたし、翻訳ツールの導入など、翻訳業界がめまぐるしく変わっていくなか、子育てが一段落した数年後に本当に復帰できるのだろうか、自分は使い物になるのだろうか、と暗澹たる気分になりました。主人に経済的に頼らなければならない状況も、なんだか腑に落ちませんでした。自分は何の価値もない人間なのではないか、と落ち込んだ日もあります。主人はいつも、私がやっている子育てという「仕事」は、この世で一番大事な仕事だ、夫婦というのはパートナーなのだから、たまたま今は自分が働き手なだけで、それは単なる役割分担に過ぎない、と励まし続けてくれたのですが……。

坂田:子育ては大事と思いつつも、仕事ができない焦燥感は募っていくばかりでしょうね。

ラッセル:結局ある友人が言ってくれた、「子育てに専念したくても事情があってできない人もたくさんいるんだから、贅沢な悩みだ」という一言で、腹をくくることができました。本当に、今から考えると、悠長で贅沢な悩みだったし、若かったなあ、と思います。

坂田:そうですね。悩みを抱えたまま子育てをするのも苦しいでしょう。吹っ切れたのはよかったですね。

ラッセル:休業期間中、子どもたちとしっかり向き合って、一緒にたくさんの時間を過ごして本当に良かったなと、今では心から思っています。いろいろと葛藤して考え続けたあの時期があったから、今の私があるのだと思います。そして休業期間は、かなりの数の本を読みました。今から考えれば、これ以上ない楽しい数年間だったと思います。

坂田:現在はお仕事に復帰なさっているのですね。

ラッセル:子育ても一段落し、いよいよ復帰しようと考えたとき、まず、以前から興味があったフェロー・アカデミーの通信講座で、「医薬翻訳マスターコース」を受講しました。翻訳だけでなく、リサーチの方法などについてもきめ細かい指導をしていただき、大変勉強になりました。

坂田:現在は、どのようなお仕事をされていますか?

ラッセル:論文、実務文書、ウェブページなどの英日・日英翻訳が主です。内容は、労働問題、スポーツ心理学、研究報告、政府資料、医療・医薬、半導体検査機器・ソフトウェア、観光、教育、アパレルなど、多岐にわたっています。

坂田:これらのお仕事は、どのように探しましたか?

ラッセル:以前のクライアントは、当時はインターネットがそれほど普及していなかったこともあり、休業中にも顔を繋いでおくという努力は、数社を除いてしませんでした。今から考えるともったいなかったな、と思うのですが……。新規クライアントは友人や知り合いの紹介などが多いです。アメリアのJOB INDEXから来たお仕事もあります。

坂田:現在は、実務翻訳と並行して、出版翻訳のお仕事もなさているのですね。

ラッセル:休業前は忙しすぎて精神的にも余裕がなかったのですが、休業中に、自分の人生で本当に大事なのは何か、じっくり考えることができました。そのときに考えた一つが、本当にやりたい翻訳は出版翻訳だ、ということでした。ですから、復帰してからは、実務翻訳をまた一からやり直しながら、出版翻訳にも何らかの形でとっかかりをつかもうと努力しました。

坂田:出版翻訳をやりたいと考えた理由はなんだったのですか?

ラッセル:実務翻訳はそれなりに楽しいのですが、内容的に無機質なものも多く、対象読者も限られているので、もう少し幅広い読者を対象にした、読み物的なものを訳したいな、という思いが強くなりました。

坂田:出版分野の中でも、とくに興味のある分野はありますか?

ラッセル:ノンフィクションやエッセイなどです。ユーモア本なども興味がありますが、とにかくまだ力不足なので、これから経験を重ねて努力していかなければと思っています。

前へ トップへ 次へ