【アメリア】Flavor of the Month 57 藤沢祥子さん
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Flavor of the Month
<第57回>  全4ページ


1冊を訳して感じた“翻訳の基礎”の大切さ

坂田:実際に翻訳することに決まってから、1冊訳したスケジュールを教えてください。

藤沢:11月の半ばに採用のご連絡をいただいて、原書が手元に届いたのが2週間後。1カ月で全5章のうち4章を提出しました。正月をはさんで、いちばん長かった残りの1章をメールで納品できたのが、3週間後の1月半ばです。すぐにテキストの状態で校正に入って、ブックデザインに合わせて文字数を減らしたり増やしたりに2週間。初校が2月10日、再校が3月24日。4月24日に届いた念校をチェックして校了したのが27日ですね。

坂田:初めての翻訳で、戸惑ったことなどありませんでしたか?

藤沢:あります。まずは時間配分です。最初にじっくりペースで始めてしまい、時間が足りなくなってしまいました。ドラマの復習を兼ねて、最終章のエピソードガイドから訳し始めたのですが、ドラマ全話を丸ごと見直しながらメモを取る形で訳していたので、とにかく時間をくいました。それから、「この意訳はセーフかアウトか」の判断にも時間を取られました。編集をしていたときにはなかったことです。基本的なところで細かな約束事がわからなかったので、どんな些細なことも調べていました。そのせいで、訳し始めはとくに要領が悪かったと思います。実は、この経験があって、最近、フェローの通信講座『STEP 24』の受講を始めたんです。届いたテキストを見たら、「これを調べてたんだよ〜」ということがたくさん載っていました。

坂田:例えば、どんなことが「調べていたこと」でしたか?

藤沢:そうですね。例えば、俳優のインタビューのなかで"they"とか"them"が突然出てきたとき。明らかにプロデューサーなど製作サイドのスタッフのことを指しているのですが、具体的な語は前にも後ろにも出てこない。自分で読んで楽しむだけならさらっと読み流すところですが、訳すとなると「彼ら」ではおかしいことに気づきます。じゃあここに「プロデューサー」という語を勝手に入れていいのかな、と悩み、定説や約束事はあるのか、インターネットや参考書、翻訳書で延々と調べるわけです。まぁ、言い方を変えると「プロデューサー」と入れたいがための証拠固めですね(笑)。『STEP24』のテキストには、具体的な語を入れる場合、省略する場合、あるいは言い方を変える場合などが、読者の視点ではなく訳者の視点で書かれていて、すごくスッキリしました。この三つ以外の方法を取るとしても、三つを知っていてやるのと知らないままやるのとでは、意味が違いますからね。

坂田:藤沢さんは以前、翻訳書の編集者をしていたので、その頃の経験が生かされたこともありましたか?

藤沢:本作りの基本的な進行が頭に入っていたのは役に立ったと思います。今回は原書と同じレイアウトにすることが第一条件だったので、訳文の文字数が多すぎても少なすぎてもダメだったのですが、DTPでできることとできないことを踏まえたうえで、文字数を合わせていくことができたと思います。可能であれば編集者と翻訳者が校正刷りを一緒に見ながら細かく打ち合わせていくのがいちばんいいと思いますし、自分が編集をしていたときもできるだけそうしていました。今回は実際に編集の方と会って打ち合わせを繰り返すことが距離的に難しかったこともあり、とりあえず思いついたことをすべて初校ゲラに書き込んで、編集の方に確認をお願いするという形をとりました。通常翻訳者が確認する範疇をかなり超えていたので、編集の方は引いてしまったかもしれませんが(笑)、進行がわからずに頭を悩ませることはなかったので、逆に訳文の執筆・校正に集中できたと思います。

坂田:あるいは、編集者の立場だった頃にはわからなかったけれど、翻訳者の立場になって初めて気づいたことなど、ありましたか?

藤沢: 納期ですね。昔の私は、無茶な納期でお願いしていたんだなーと思いました(笑)。『アグリー・ベティ』は担当の方が融通をきかせてくださって、当初の予定よりたくさんの時間をいただけたので、助かりました。

坂田:現在されている、インターネット調査員の仕事も、調べ物をするのに役立ったのでは?

藤沢:インターネット調査員の仕事は、契約上、詳しいことはお話しできないのですが、とにかく膨大な数のウェブサイトを見るので、内容が信頼できるものかどうかを判断するのは早くなったと思います。すごく有益に見えてもどこか信頼性に欠ける情報しか載っていないページも多いですから。また、複数の検索エンジンを使うことで得られる成果も多いです。英単語を複数の辞書で引くのと似ていますね。あとは、調査レポートや先方とのやり取りが英語のみ、という点も役立っています。英語を使う仕事という意味で、翻訳との切り替えも楽です。それから、この仕事は時間的にかなり融通が利くので、翻訳の仕事も勉強も無理なくできるのがいいですね。

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