【アメリア】Flavor of the Month 60 齋藤慎子さん
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Flavor of the Month
<第60回>  全4ページ


仕事のない環境が背中を押してくれた

坂田:スペインに住むようになって、すぐに翻訳の仕事を始められたのですか?

齋藤:いいえ、それまで業務の一部として翻訳をしたことはありましたが、あくまでも社内翻訳で、誰かのチェックを受けたこともありませんでした。多くの人の目に触れる商品ではなかったので、自分の翻訳がこれでいいのかどうかという客観的な判断がまったくなかったんです。だから、すぐに仕事で翻訳をするなんて私には無理だと思っていました。

坂田:では翻訳をすることは考えずに、普通に仕事を探した?

齋藤:はい、地元で自分にできる仕事を探そうとしたのですが……。今住んでいるところは、マドリッドやバルセロナのような都会と違い、地方のごく小さな町ですので、なかなか仕事がありませんでした。私が外国人だからないのではなく、スペイン人でも納得のいく仕事に就くのはかなり難しいです。スペインに来た当初は日本食レストランで働いたこともありました。その後、仕事を探し続けていましたが、半年ほどまったく見つからない時期があって。地元での仕事探しと並行して、翻訳についても調べました。スペイン在住でどうやって翻訳を勉強すればいいか、翻訳の仕事を探すのはどうすればいいか、インターネットを使っていろいろと調べました。とにかく何とかしなければと焦り、比較的お手頃価格の通信講座の受講を決めたのですが、その直後に地元で仕事が見つかって……。

坂田:どんな仕事ですか?

齋藤:私の住むエリアは地中海に面したリゾート地で、家から車で30分ほどのところにハリウッドスターもお忍びで来るような超高級ホテルができ、そこの日本食レストランのマネージャーの仕事に就いたのです。

坂田:スペイン語は問題なく話せたのですか?

齋藤:昔からスペインが大好きで、大学の第2外国語ではスペイン語を選択しました。当時はあまり真剣に勉強しませんでしたが、社会人になってから、NHKのラジオ講座、語学学校、通信講座、スペインの大学の夏期集中講座などで勉強し、ずっと独学を続けていました。スペイン語はまだそれほど流暢ではありませんでしたが、レストランでの仕事で使うスペイン語は料理の説明やお会計など限られているので、それは何とかなりました。ただ、勤務時間が非常に不規則かつ長時間だったこともあり、1年ほどで辞めざるを得なくなりました。

坂田:また職探しに逆戻りですね。

齋藤:そんな地方に住みながら、いまの自分にできることは何だろうと考えたとき、もう翻訳しかありませんでした。受講していた通信講座は、ホテルの仕事が忙しくなってしまったので、まったく手がつけられないまま、1年間の受講期限が近づいてしまいました。このままでは受講料があまりにももったいないと思い、延長料金を払って課題提出をなんとかすませ、その後アメリアにも入会しました。2005年10月のことです。他にもインターネット経由で受けられるあらゆる翻訳サービスをチェックしました。

坂田:最初は、翻訳はきちんと勉強したことがないし、自分には無理だと思っていたということでしたが。

齋藤:こう言うと消極的な理由に思われるかもしれませんが、「もう翻訳を仕事にするしかない」状況でした。翻訳に漠然とした興味をずっと持ちながら、「それを仕事にするなんて、自分にはとてもムリ」と思いこんで消極的だった自分の背中を押してくれたのは、ほかならぬこの「仕事がまったくない環境」でした。この逆境がなければ、いまでも翻訳を始めていなかったかもしれません。結果的に、この環境が夢を実現させてくれたということです。「窮すれば則ち変ず,変ずれば則ち通ず」ですね。

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