【アメリア】Flavor of the Month 9 黒田俊也さん
読み物
Flavor of the Month
<第9回>   全3ページ





  




坂田:今回は実務(メディカル)と出版(ノンフィクション)の両方にノミネ会員として登録されている黒田俊也さんをお迎えしました。アメリアの事務局の方の推薦でゲストに選ばれたのですが、実は私は黒田さんとは“勉強会仲間”なんですよね。黒田さんが始めた勉強会に、後から参加させてもらったのがキッカケで、いろいろとお世話になっています(笑)。

黒田:こちらこそ(笑)。勉強会は1998年秋のフリーランスコースのクラスメート数人で始めたのですが、坂田さんはそこに2000年の冬頃から加わったんですよね。勉強会1年目は週に1度集まって、それぞれの訳文の批評会などをやっていたのですが、2年目からはネット上でやるようになって。僕がホームページを作ったのですが、それを見て参加してきたのが坂田さん。後にも先にも、ネット経由で申し込んできたのは坂田さんだけでしたよ。

坂田:そうですか。ホームページを見つけたのも、すごい偶然だったので、何かのご縁ですね(笑)。今では“勉強会”というよりも“飲み会”がメインですが。でも楽しいです。ところで、前から聞きたいと思っていたんですが、黒田さんはお医者さんなのに、どうして翻訳の勉強を始められたんですか?

黒田:今まで話したことなかったでしたっけ。フェローに通うようになったキッカケは、本屋で見つけた『あなたも翻訳家になれる』っていう感じのタイトルの本なんですよ。大手の翻訳学校が広告を出していて、それを見ていたら、勉強すればすぐにでも翻訳家になれる気がしてきた(笑)。

坂田:でも、どうしてその本を手に取ったんですか?

黒田:迷っていたんですね。医学部を卒業して、医者として働き始めて4年半ほどの頃でした。最初の2年ぐらいが基礎的な技術を身に付ける期間で、次の2年が専門に絞り込んでいく期間。5年目というのは、ちょうど中途半端な自信みたいなものが出てくる時期で、それから、医学界の現実も見えてきたりして……。そんななか、自分のやりたいことが見えなくなっていたんでしょうね。

坂田:私が想像するに、医者というのは簡単になれるわけではないですから、大きな夢や理想を抱いていて、でも現実はそれとはズレがある。それを目の当たりにしてしまった。そういうことでしょうか。

黒田:高校生の頃、文系と理系に分かれるじゃないですか。最初、僕は大学は哲学科に進みたいと思い、親に相談したんです。哲学に何となく憧れがあったんですね。そしたら「哲学では食っていけないだろう」と言われて。そのとき自分の中に、“哲学でコレがしたい!”というはっきりしたものがあるわけじゃなかったので、すぐに気持ちが萎えてしまって。結局、得意科目だった理系を選ぶことになって。

坂田:では、医学部を選んだ理由は?

黒田:人間に一番近そうかなと。それに人に対して直接的な感じがしたので。

坂田:哲学という精神的なものに興味があって、その流れから人に近い職業、医者を選んだということでしょうか?

黒田:今振り返ると、あるいはインタビューをされて改めて考えると、そういうことになるんでしょうかね(笑)。僕の場合、抽象的な思考が先にあって、それには具体的にこっちの道が合うんじゃないかなっていうのを選んでいくんですね。ある程度それが思い通りにいくと、次の道を選ぶ、そんなことを繰り返しているのかなという気がしますね。

坂田:では、次の道を考えたときに、どうして翻訳だったんでしょうねぇ。

黒田:そうですねぇ。それまで、翻訳家というのは全然意識にありませんでしたからね。どういう人がそういう仕事をしているのかというのも知らなかったし。ただ、英語には触れる機会は多かったと思います。まず、医学の世界ってすべて英語なんですよね。特に僕の場合、大学時代にとったゼミが英文医学書の抄読会を中心に進めるゼミで、かなり英語の読み方に力点を置いて教えてくれる教授だったんです。そこで医学関係の英文は問題なく読めるようになりました。研修医になってから、これは珍しいことなんですが、アメリカ人の医者が僕の教育担当だったんですよ。その4年間で英語を聞くこと、話すことが鍛えられました。うまくコミュニケーションがとれないと悔しいから、ちょっとした表現を覚えようと頑張ったり。その過程は面白いんですよね。英語を勉強することは、結構楽しかったですね。だから本屋で『あなたも翻訳家になれる』という本を見つけて、「ああ、なれるかも」って思っちゃったんでしょうかね。ちょうど、そのまま医者を続ける自信が全然なくなっていた時期でしたし。

坂田:それで、翻訳学校を探して、フェロー・アカデミーのフリーランスコースで勉強を始めたわけですね。最初から医者の経験を生かして、メディカル翻訳を目指していたんですか?

黒田:いいえ、それが違うんです。実は、物書きになりたいという漠然とした思いがずーっとあって。小学校の卒業アルバムには『小説家になりたい』って書いてあるんですよね(笑)。でも、現実には医学部に入って、全く違う世界でやらなければならないことがいっぱいあって、そこからは全く遠ざかっていたんです。でも、子供の頃のほうが素直だから、本当になりたいのは物書きだったんでしょうね。そんなこともあって、翻訳の勉強を始めたときは、最初から文芸志望でした。何かを表現するというか、書くと落ち着くという作用がありますよね。

坂田:アウトプットすることで、自分を見つめ直したいという気持ちなんでしょうか?

黒田:何なんでしょうねぇ。僕も最初は、書くことに理屈を付けようとしていたんですが、そうすると理由がないと何も書けなくなってしまう。翻訳を始めてよかったのは、“書くこと自体が楽しいんだな”ということがよく分かったことですね。書くことに目的はいらない。キャッチボールと同じで、それ自体が楽しいという感覚になってきたんです。そうすると逆に、長く続けられるかなと思っています。

※文中の「ノミネ会員」は現在の「クラウン会員」のことです。
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