【アメリア】Flavor of the Month 9 黒田俊也さん
読み物
Flavor of the Month
<第9回>   全3ページ




坂田:そのままいけば、今頃は出版翻訳家としてデビューして、二冊目を訳していたかもしれないということですね。そしたら医者はどうしようかな、って考えていたんじゃないですか?

黒田:そこらへんがまた皮肉なもので、医者を再開して3年ぐらいになるんですが、今、主にやっているのが緩和医療、ターミナルケアと呼ばれるものと、老人医療なんです。自宅で療養するのを助けるという仕事をしていて、それが意外と自分に合うんですよね。それこそ、高校生の頃に求めていた感覚に近いんです。

坂田:哲学に興味があるとおっしゃっていましたが、そちらのほうに近いのでしょうか。病気を治すといよりも、人間として生きることの手助けをするというか。

黒田:医学というのはひとつの手段だから、僕はその手段を提供するんだけれども、それを通して僕もまた多くの体験ができる。そこがすごくいい。もう少し、そうした経験をしたいなと思っているんです。

坂田:病院に詰めているのではなく、患者さんの自宅を回っているとおっしゃってましたよね。

黒田:南房総地区に220名の患者さんがいるんですが、24時間体制で僕を含めて3名の医師で担当しています。今は、週に3日間、車で診療に回っているんですが、1日に3〜7件、距離にして短い日は20〜30キロ、長いと120キロぐらい走ってますね。

坂田:医者の仕事と、翻訳の仕事と、今は医者の仕事を優先したいとお考えですか?

黒田:今の仕事は、今後、医者としてやっていくうえでも、また希望がかなって物書きや翻訳家になれたとしても、どちらにもプラスになるんじゃないかなと思っています。最近思っているのは、“二足の草鞋”が楽しそうかなと(笑)。上司の理解とか、二足にするからには、一足の仕事をそれぞれきちんとしなければならないというプレッシャーもあるんですが、でも、うまくこなせれば、双方にいい効果があるんじゃないかなと。

坂田:そうですよね。仕事って、ひとつに固定する必要はないですよね。いろんな経験が役に立つのだから、私ももっと自由でいいと思います。医学の方ばかり見ているお医者さんって、患者さんの生活とか、一般的なことを解ってくれるのかなぁって思いますよね。

黒田:そうですよねえ。わかっていない医者も多いんじゃないかと思います。

坂田:たとえば翻訳にしても、イギリスのターミナルケアを紹介した読み物などを黒田さんに訳してもらいたいですよね。英語で書かれたものを日本語へ置き換える難しい作業を、実際の体験で補ってくれるんじゃないかなって思います。

黒田:多分、医学関係のノンフィクションが、入りやすいんじゃないかなと僕自身も思っています。以前、実務翻訳で、医学の歴史の断片みたいな翻訳を頼まれたことがあったんです。“古代は頭痛をどうやって治療していたか”とか。それはわりと自信をもって訳せたんですよ。是非、新しく始まった「Myプロフィール」に書き込もうと思っているんです。

坂田:そうですね。「Myプロフィール」に書き込むにはぴったりですね。そこから新しい道が開けるかも知れない!

黒田:そうなるといいんですが……。

坂田:現在は、翻訳の仕事はしていないんですか?

黒田:ええ。今、小説を書いているんですよ。

坂田:小説ですか!? それは初耳です!

黒田:僕の中では、あるアイデアが浮かぶと、それを、その時に表現したい形で表そうと考えていて、今回はそれが小説だったんです。短編をいくつか書いています。すごく古典的な、純文学系と言えばいいのかなあ。いくつかまとまれば、どこかの出版社に送ろうかなと思っているんです。それと、翻訳の方では、第二弾として訳す予定だった本を、少しずつ訳しはじめています。イギリスの児童文学作家が書いたアンデルセンの伝記なんですが、2005年はアンデルセンの生誕200年にあたる年で、日本でもイベントがあるようなので、それまでになんとか出版できないかなあと模索しているところです。これには、坂田さんにもご協力いただいているんですよね。

坂田:はい。全部で360ページほどある本なので、黒田さんの呼びかけで、勉強会の有志で訳そうとプロジェクトを開始したところなんですよね。目標は年内に訳し終えること! かなり厳しいですが頑張りましょう。

黒田:頑張りましょう!



私が抱いていた医者のイメージを、いい意味で壊してくれたのが黒田さんでした。飄々としているように見えて、実は繊細。我が勉強会の素晴らしきリーダーです。翻訳書の出版が実現したあかつきには、またご登場いただきたいと思っています。
前へ トップへ