【アメリア】Flavor of the Month 10 白幡さとこさん
読み物
Flavor of the Month
<第10回>   全3ページ


私の中に広がる“三国志ワールド” この知識を、いつか、どこかで役立てたい

坂田:大学は中国語専攻だったということですが、なぜ中国語を選んだのですか?

白幡:話は高校入学当時にまで遡るのですが、始めて電車通学することになって、電車の中で読む本が欲しいなと思っていたんです。その頃、「面白い本があるよ」と小耳に挟んだのが吉川英治の「三国志」でした。本屋さんに行ってみると、かなり分厚い本で8巻ぐらいまであって、これならすぐに読み終わることもないだろうと、三国志を読むことに決めたんです。それがキッカケとなって、マンガ版の三国志を読んだり、NHK人形劇の三国志を観たり、私の中の三国志ワールドがどんどん広がっていったというわけです。

坂田:それほどはまったということは、よほど面白かったんでしょうね。

白幡:でも、全8巻の最初の2巻ぐらいまでは登場人物が多すぎて、読むのが大変でした。3巻から物語がスッキリとしだして、4巻になるとかなりテンポが乗ってきて、4巻の後半に諸葛孔明 (しょかつこうめい)が登場してくると、あとは8巻まであっという間、といった感じでしたね。そういう人は多いのですが、私も“孔明ファン”ですから(笑)。

坂田:小説とマンガでは内容が違っていたりするのですか?

白幡:そもそも三国志は大別すると2種類あるんです。ひとつは、歴史に忠実な正史三国志。もうひとつは、話を面白く、血湧き肉踊る物語に書き換えた三国志演義。こちらは7割方フィクションだと言われているくらい、本物とは違うんです。吉川英治の三国志も演義のほうです。漢文の原書を翻訳したのではなく、小説として書き起こしたものというわけです。筑摩書房から正史の完訳が出版されたので、一応全巻揃えたのですが、有名ではない武将が出てくる部分は、まだ読んでいないところもあります。やはり歴史の記録として書かれた文章なので、読み物としては面白みには欠ける部分があって……。

坂田:三国志って奥が深いんですね。その三国志にのめり込んだことが、中国語を専攻した理由だったということですね。

白幡:そうです。大学は語学系に進もうということは何となく決めていて、英文科にしようかとも思ったのですが、私、少しあまのじゃくなところがあるので、どうせならあまり人がやっていないことをしようと思って……。三国志が面白いから中国語をやってみようと決めたんです。これは余談ですが、実は大学に入ってからワーグナーのオペラにはまった時期もあったんです。これがもし高校時代のことだったら、間違いなくドイツ語を専攻していたと思います(笑)。

坂田:結構、のめり込むたちなんですね。

白幡:そうなんです。三国志ファンにはそういう方も多いんですが、大学の頃から自分でも三国志を題材にした小説を書いたりしています。最近はストップしてしまって、家の本棚に埋まっているんですけどね。それから、三国志のコンピュータゲームにも、もちろんはまりました。そういえば以前、イギリスで制作された三国志の英語版ゲームソフトを日本語に翻訳する仕事に関わったという方にお会いしたことがあって、いろいろと苦労話をお聞きしたことがあるんですよ。

坂田:苦労話というと?

白幡:いちばん大変だったのが、登場人物の名前や地名といった固有名詞を、英語表記から日本語に翻訳する作業だったそうです。翻訳者の方は、中国語、ましてや三国志には詳しくなかったようで、かなり苦労をされたとうかがいました。固有名詞の英語表記は、基本的に中国語の発音をもとにして作られているので、中国語の知識があれば比較的簡単に日本語になおすことができるんです。

坂田:中国語経由というところがポイントですね。

白幡:例えば、英語で“Beijing”といえば、これは中国語を知らない人でも“北京”を指すとわかります。英語の辞書にも載っていますし。けれど、ちょっとマイナーな固有名詞となると辞書では調べられません。三国志関係では、例えば“Wuzhangyuan”。これは、漢字では“五丈原”、諸葛孔明の終焉の地ですが、中国語を知らないとこの「Wuzhangyuan→五丈原」の変換に、かなりの難儀を強いられることになります。

坂田:地名もそうですし、人名も大変そうですよね。三国志って、登場人物の数が半端じゃないって聞いたことがありますが。

白幡:はい、登場する武将の数ははっきりとは言えませんが、おそらく700人や800人ぐらいにはなるんじゃないでしょうか。毛沢東のように有名人の名前なら英語の辞書にも出ているでしょうが、三国志のゲームに出てくる人名を全部調べられるような辞書はありませんから。

坂田:三国志に詳しい白幡さんでも、さすがに全部は覚えられないですよね。

白幡:そうですね。英語表記を見れば名字ぐらいは頭の中で変換できますが、マイナーな登場人物で英語表記を見ても中国名が思い浮かばない場合は、その人物が登場する状況、役割などを見た上でだいたい見当を付けて調べていくと思います。ゲーム翻訳の方にその話をしたら、「あの頃出会っていれば、いろいろと聞けたのに」とおっしゃっていました。私もそう思います。

坂田:たとえば、今回始まった『会員プロフィール検索』のようなシステムがあれば、出会えていたかも知れませんね。

白幡:本当に、そう思います。私も勤めていますので、翻訳そのものは無理かも知れませんが、背景知識のアドバイスや、固有名詞のチェックなど、そういう面でも役に立てたんじゃないかなと思います。

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