【アメリア】Flavor of the Month 13 瀧口香織さん
読み物
Flavor of the Month
<第13回>   全4ページ


この理屈っぽさが私に向いている 「特許っておもしろい!」そう思いました

坂田:おーっと、ここでいきなり翻訳が出てくるわけですね。まずは、その『特許翻訳』との出会いから教えてください。

瀧口
:はい。開発の途中で、ライバル会社が出している特許を調べたり、開発中の商品に関係するメディカルや化学の分野の特許明細書を読む機会が数多くあったんです。海外の会社がもっている特許の明細書は、もちろん英文で書かれていました。また、自分たちが開発したものを明細書に書くこともありました。特許に関しては特許事務所の弁理士さんとやりとりをするのですが、ある日、弁理士さんから「特許の明細書を翻訳する専門の翻訳家の人もいるんですよ」と言われて、そのとき初めて『特許翻訳』という仕事を知ったんです。それで興味をもって、自分でも少し調べてみました。そんな頃、新聞に特許翻訳のアルバイトの募集が出ているのを見つけて、"初心者には一から教えます"という言葉にひかれて、上司に「これをやってみたい」とその新聞を見せたんです。そうしたら、「社長には内緒でやれ」という暗黙の了解を得られたので(笑)、在宅翻訳のアルバイトを始めました。

坂田:会社で特許に出会ったんですね。それで、特許翻訳のアルバイトの方は、順調に進んでいたのですか?

瀧口:アルバイトとはいうものの、こちらは全くの初心者ですし、直したり、教えたりしてくれる代わりに翻訳料はすごく安かったんです。でも、特許翻訳に興味を持ち始めた私にはうってつけのアルバイトでした。やっていて、どんどん面白くなっていきました。

坂田:どこが、どのように面白いんですか?

瀧口:特許って、すごく理屈っぽいんですよ。特許の明細書では、まず最初に「請求の範囲」を記載するのですが、たとえばコーヒーカップの発明をした場合に、"これはこういうコーヒーカップです"と書いてしまうと、他の人がコーヒー以外の他の飲み物を入れる同じようなカップを開発しても、訴えることができない。

坂田:コーヒーじゃなくて紅茶のカップとか?

瀧口:そうです。だから、どんな飲み物にも適用できるように、ずばり"コーヒー"とは書かずに、遠回しに定義するんです。多分、特許のこういう理屈っぽいところを私のように「面白い」と感じる人もいれば、「面倒くさい」と感じる人もいると思うんです。私はすごく面白いと思いました。翻訳するより何より、「特許って面白い!」ってね。特許の翻訳をやってみたいなと思う人は、特許庁のホームページを見てみるといいですよ。明細書が公開されているので、それを読んでみて、面白いって思える人には、特許翻訳は向いていると思います。

坂田:会社を辞めた瀧口さんは、すぐには特許翻訳の仕事には就かずに、フェロー・アカデミーのフリーランスコースに入学したんですよね。それはどうしてですか?

瀧口:特許専門の翻訳学校に行くとか、特許事務所に勤めるとか、あるいは翻訳会社に勤めるとか、いろいろと考えました。でも、そこでひとつの疑問が浮かんできたんです。「自分は果たして本当に翻訳家に向いているのだろうか?」という疑問です。それまで研究職しか経験がありませんでしたから、全く別の仕事に就くというのはかなり勇気が必要でした。だからまず、翻訳ってどんなものなのか、それを知りたいと思って、それで翻訳学校をいろいろと探してみたんです。会社を辞めることになるまでは翻訳学校に通うなんて思っても見なかったので、フェロー・アカデミーのことも全く知らなかったんですよ。

坂田:数ある翻訳学校のなかからフェローを選んだ理由は?

瀧口:まず、いろいろな翻訳学校に見学に行ったんです。もちろんフェローにも。フェローに行ったときに案内してくれた方がすごくいい人で! もう名前も忘れてしまったんですけど、「こういう人がいるんだったら、きっと良い学校だろうな」と思ったんです(笑)。それから教室が狭いんですよね。「これなら授業も面白そうだな」って思いました。

坂田:では、フェローのなかでもフリーランスコースを選んだのは?

瀧口:本当は1年間のカレッジコースに通った方がいいかなと思ったんですが、貯金が足りなかったから……。フリーランスコースなら3ヶ月だし、すべての分野を網羅しているから、翻訳を知るにはこっちのコースでもいいかなと思い選びました。

坂田:実際に通うようになって、いかがでしたか?

瀧口:いちばんの収穫は友達ができたことでしたね。驚いたことに、理系出身は私だけだったんです。おかげで、今まで出会えなかったタイプの友達に出会えて、すごく楽しかったです。最初の自己紹介で、「親にお見合いをさせられそうになってとりあえず入りました」とか、「会社の社長とけんかして辞めて来ました」とか、とにかくユニークな人たちばかりで。今でも仲良くしています。

坂田:特許以外の翻訳に触れるのは初めてだったわけですよね。文芸翻訳とか、映像翻訳とか。

瀧口:そうです。読書はすごく好きなんですが、翻訳ものはあまり読んだことがなくて……。でも、まわりの人たちは文芸志望の人が多く、みんなすごく詳しいので、勉強になりました。でも、いろいろ全部やってみても、やっぱり私はいちばん実務が面白いなって。

坂田:再確認できたわけですね。それは、大きな収穫でしたね。そもそもの出発点だった「自分は果たして本当に翻訳家に向いているのだろうか?」という疑問に対する答えは見つかりましたか?

瀧口:はい。勉強してみて、翻訳は仕事としてすごく面白いと思えるようになりました。では次にどうしようかと考えたときに、フェローの別の講座を受けるという選択肢もあったのですが、まずは実際に実務を体験してみたいと考えました。実際にやってみないとわからないことも多いと思ったので。たとえば納期に合わせて仕事をすることとか。だから翻訳会社に就職しようと決めました。

坂田:とは言っても、なかなか就職先を見つけるのは難しいですよね。

瀧口:ええ。ただ私の場合は、少しではありましたが特許の翻訳をやったことがあるということが武器になったようで、すぐに採用が決まりました。私としてはメディカル翻訳のほうにも興味があったのですが、有無をいわさず特許部に配属されてしまいましたが……。


前へ トップへ 次へ