【アメリア】Flavor of the Month 13 瀧口香織さん
読み物
Flavor of the Month
<第13回>   全4ページ


日本語で特許明細書が書けるようになって翻訳の作業がやりやすくなりました

坂田:無事、翻訳会社に就職が決まって、特許部に配属され、そこではどのような仕事をしていたのですか?

瀧口:主な仕事は、翻訳のチェックとコーディネートですね。会社によってはチェッカーとコーディネーターは担当者が分かれているところも多いようですが、その会社では全部やらされました。仕事はとても大変だったのですが、コーディネーターをやっていたおかげで訳者さんと知り合いになれて良かったです。その頃知り合った訳者さんは、大先輩なのですが、今でもわからないことを質問したりしています。人のつながりは非常にプラスになりましたね。

坂田:自分で翻訳するということはなかったのですか?

瀧口:ほとんどないですね。その代わり、チェックをするために人の訳文を大量に読む機会があって、とても勉強になりました。"目からウロコ"でしたね。最初は上手いも下手もわからないで読んでいたんですが、だんだんと「これはちょっと違うかも知れない」とか「この人は上手い」とか、わかってくるんですよ。

坂田:それって、すごいことですよね。まず、文章の善し悪しが判断できないと、自分でもいい訳文は書けませんよね。

瀧口:そうですよね。でも、だんだんやっていくうちに、次なる問題が出てきたんです。訳者さんから電話がかかってきて「日本語の意味が分からないから明細書を書いた人に問い合わせてください」というんです。たしかに明細書を読んでいると、明らかに日本語の意味が分からないことが結構あるんですよ。先程言ったように、特許の範囲を広げるために、わざと曖昧な言い回しをしたりしますから。そういうことを経験していくうちに、「自分でも明細書が書けるようになったほうがいいな」と思うようになり、「よし、特許事務所に就職しよう」と決めて、翻訳会社を辞めることにしました。

坂田:決断が早いですね。翻訳会社を辞める少し前からフェローの通信講座で「特許翻訳マスターコース」を受講なさっていますよね。これはどうしてですか?

瀧口:会社では人の翻訳をチェックして、それは勉強になるのですが、インプットばかりでアウトプットできる場所が欲しかったんです。

坂田:自分が学んできた結果を、誰かに見てもらいたい、評価してもらいたい。それには通信教育がちょうどよかったと。

瀧口:そうです。通学する時間もありませんでしたし。それに通信教育の良さは、ひとつひとつ丁寧に見てもらえるところです。その時の先生は特許事務所に勤めた経験があり、ご自分でも明細書が書ける方で、先生ともメールのやりとりをさせていただいて、いろいろなアドバイスを受けました。その影響もあって、特許事務所に転職しようと思ったんです。在宅で翻訳の仕事を少しずつやりながら、約半年後に特許事務所に就職が決まりました。

坂田:そこでは翻訳ではなく、日本語で特許を書く仕事をなさっていたのですか?

瀧口:小さな事務所だったので、何でもしました。「英語ができるのであれば、日本語の明細書を書きながら翻訳もやってください」といわれました。もちろん、そのほうがよかったので、その事務所に入ろうと思ったんですが。日本語の明細書の書き方を一から教わって。これがまたすごく難しいんです。業界では"一人前になるまで八年かかる"と言われるほど。結局私は二年半でフリーランスになるために会社を辞めましたが、それでもとても勉強になりました。

坂田:ひとつ質問をしてもいいですか? 明細書というのは、その特許を開発した本人が書くのではないのですか?

瀧口:申請書類を作成するのは、さまざまな制約があるため、その道のプロでないと必要十分の明細書を書くのは難しいんです。だから、ほとんどの場合、特許事務所に依頼をして書いてもらいます。大手の会社では特許部があって社内で作成したり、もちろん開発者のなかには自分で書く方もいらっしゃいますが。

坂田:では、特許事務所の担当者が、開発者から説明を受けて書き起こすというわけですね。

瀧口:そうです。私もその仕事をしていました。そうやって、明細書が書けるようになっていくと、ただ日本語を読んで英語に訳していたときよりも、よりわかるようになったんです。書いた人の気持ちが分かるから「この部分は苦し紛れに書いているな」とか、そういうのが見えてくるんです。それがわかるようになってからは、翻訳するときに、ひとつひとつの言葉に引きずられて悩むようなことが少なくなりました。

坂田:現在は在宅フリーランスで特許翻訳をなさっているわけですが、フリーになったきっかけは?

瀧口:「いずれはフリーに」という思いは以前からあったんです。最初の就職で、会社員に疑問をもっていましたので。

坂田:実際にフリーになって約半年ですが、いまの環境はいかがですか? メリット・デメリットは?

瀧口:自分の責任で仕事が進められるというのは私には向いているようです。会社だと「12時だからランチタイムですよ」って仕事が途中でも休憩しなければならないでしょう。私は自分のリズムで仕事をしたい方なんですよ。仕事をしただけ収入になるのもメリットですね。デメリットは、福利厚生がなくなるし、有給休暇ももちろんないですから、そういう意味では厳しいです。とにかく、イメージしていたのとは確かに違うな、というのが感想です。

坂田:どんなイメージだったのですか?

瀧口:ティータイムがあるような優雅な生活です(笑)。中国茶などお茶が好きで、何種類も揃えているんですが、パソコンに向かいながら仕事の傍ら飲むだけですね。私、この半年のあいだに"第一次ストレス大事件"を経験したんです。私は出不精で、家で本を読んでいるのが大好きなんですが、それでも一日だれとも口をきかずに、ただ黙々と仕事をしていることは結構なストレスなんだなって実感しました。ストレスを経験してからは、なるべく散歩をするようにしたり、友達と電話やメールをやり取りしたり、気を付けています。今、いちばんのストレス解消法はフェローの通学講座に通うことなんですよ。


坂田:フリーになってから、フェローの通学講座で特許英訳を受講されているんですよね。

瀧口:そうです。フリーになって最初の頃は、とにかく時間があるとどんどん仕事を受けてしまって、仕事に追われる毎日だったんです。でも、レベルをアップしていくためには自分の勉強も大切ですよね。仕事だと納期がありますから、「もっといい表現があるのでは」と思っても、仕事として必要十分なレベルに達したらそこで納品せざるを得ません。それも大きなストレスになっていて……。でも、講座の宿題だと、とことん突き詰めて考えられるし、それについて先生からのアドバイスが受けられる。これが私の目下のストレス解消法なんです(笑)。


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