フリーランス翻訳者 蓑輪 美帆さん|アメリア会員インタビュー
情報・コラム
アメリア会員インタビュー
蓑輪 美帆さん

蓑輪 美帆さん

美術史専攻からファイナンス、
そして金融翻訳に

プロフィール

大学卒業後、広告会社勤務を経てアメリカのビジネススクールでMBA取得。その後事業会社で経営企画やファイナンスの業務に携わりながら、2007年からフェロー・アカデミーで翻訳学習をはじめる。2012年にフリーランス翻訳者として独立。企業の投資家向け資料や目論見書(有価証券の募集・売り出しにあたっての情報開示文書)といった金融分野を中心に、ビジネス全般、さらにオンライン自己啓発教材などの日英・英日実務翻訳を行う。今後はビジネス書の出版翻訳など、新たな分野への挑戦も目論む。

強みは事業会社のファイナンス、経営企画

加賀山 : 今日は実務翻訳者の蓑輪美帆(みのわ みほ)さんにお越しいただきました。とくに金融関連の翻訳でご活躍中ですが、具体的にはどのようなお仕事が多いのでしょう。

蓑輪 :まず、週に1本、ウェブ上で公開される金融専門誌の記事があります。個人投資家、機関投資家向けの記事の和訳です。それから、日本の東証一部上場企業のIR(投資家向け広報)資料の英訳。こちらは決算資料や、社長が投資家におこなうプレゼンなどで、四半期に1回と、年次決算後の4月から5月にかけて訳します。

加賀山 : プロフィールを拝見すると、外資系金融企業の社内外文書や分析レポートの日英・英日翻訳もあります。

蓑輪 :それは不定期で、社内で使ったり、社外に開示したりする資料の翻訳ですね。他には、以前ファッション関係の外資系企業に勤めていた関係で、外資系ファッション企業が日本の各店舗に送る週報や、ビジネスマン向けに企画されたマーケティングや資産運用、自己啓発などのオンラインセミナー資料の翻訳もしています。

加賀山 : それは英日の翻訳ですね。

蓑輪 :はい。海外企業のプロジェクトの目論見書を訳したこともあります。いまはちょっと下火になっていますが、仮想通貨を扱う企業のホワイトペーパーで、プロジェクトの内容やメンバー、今後の売上見込み、裏づけとなる試算などのレポートでした。

加賀山 : これらのなかでいま力を入れているのはどれでしょう。

蓑輪 :比較的最近始めたものですが、毎週の金融専門誌の仕事です。やりたかった仕事に近いということもあります。

加賀山 : 「やりたかった仕事」とは、どういうものですか?

蓑輪 :翻訳を仕事にしようと考えたときに、自分の経歴や知識から、何かしらファイナンスに関わる分野にしようとは思っていました。ただ、私は投資会社や銀行で働いていたばりばりの金融マンではなく、事業会社で財務や経営企画にたずさわっていましたから、会社というものを、ファイナンスだけでなくもっと広い視野でとらえる案件に特に魅力を感じていました。
 金融のプロだけではなく、もう少し広い読者向けの内容、つまり私からみるとより読者を身近に感じられる内容です。そういう意味で、いまの金融専門誌の仕事は希望に近いものです。

加賀山 : なるほど。昔は希望する方向と少しちがっていたのですね。

蓑輪 :最初のころは、金融以外の仕事もかなりありました。徐々に会社の経営関連の案件が入ってきて、2015年ぐらいに金融翻訳関連のチェッカーの仕事が入るようになりました。そこからだんだん金融関連の案件が増えてきた感じです。

加賀山 : リーディングもしておられるようですが、これは出版翻訳にかかわるものですか?

蓑輪 :はい。ある出版社から比較的コンスタントに、いろいろなジャンルのリーディングを依頼されています。ロマンス、ヤングアダルト、SF、政治もののノンフィクションなど、ジャンルはさまざまです。ふだんから本は読むように心がけていますが、仕事になるとやはりきちんと読みますので、忙しくてもできるだけ引き受けるようにしています。

加賀山 : いずれは出版翻訳も、ということでしょうか。

蓑輪 :チャンスがあれば、ですね。いまの仕事は、定期的なものもあるとはいえ、不定期で突然入ってくるものもけっこうあります。依頼が重なってすごく忙しいときもあれば、1週間ほど何をしようかというときもある。出版翻訳のように長いスパンの仕事が入れば、そのあたりを調整できますので、いまより働き方が安定すると思います。
 翻訳を始めた当初は、経歴や知識を翻訳でも活かして強みにしたいと思っていました。いまもその気持ちは変わりませんが、加えて翻訳に対する欲、つまり読者に何かを伝えたいという気持ちがより高まってきたのです。そういったことも、いずれ出版翻訳に挑戦したいと思うようになった理由です。

トライアルを活用して仕事を開拓

加賀山 :フリーランスになられたのはいつですか?

蓑輪 :2012年からですので、7年目になります。

加賀山 :7年間仕事が途切れないというのは、順調な出だしに思えますが。

蓑輪 :うーん、どうでしょう。当時と比べれば、自分のやりたい分野もやれるようになり、安定してきているのですが、まだまだ満足はしていません。いくつめかの壁にもぶつかっています。

加賀山 : 壁とはどういう?

蓑輪 :基本的なことですが、日本語の問題ですね。原文の意味を過不足なく伝えて、ストレスなく読んでもらえる日本語を書くのはむずかしいということです。翻訳を始めてから常に立ちはだかる最大の壁ですが。私はどうしてもひとりよがりになりがちで、自分の訳をあとで読むと恥ずかしくなったり(笑)。

加賀山 : たしかに英文解釈も大事ですが、日本語は翻訳者にとって永遠のテーマですよね。
 いまのお仕事は翻訳会社経由ですか?

蓑輪 :直接依頼される場合もありますが、翻訳会社からが多いです。

加賀山 : 最初はどうやって開拓されました?

蓑輪 :アメリアのトライアルです。1プロジェクトに関するトライアルという1回かぎりの募集もけっこうあるのですが、その後も担当のかたと連絡を絶やさずにいると、あるときまた別の仕事の声がかかったりもします。

加賀山 : いまもトライアルは受けていますか?

蓑輪 :常にチェックはしていて、自分に合うと思うものは受けています。

加賀山 : お話しいただいた仕事で、いまクライアントは何社ぐらいですか?

蓑輪 :ときどき声をかけていただく会社も含めて5、6社ですね。

加賀山 : これから増やしていく予定でしょうか。

蓑輪 :増やしたいです。ただ、相性はあって、1回のプロジェクトでおつき合いが終わることもあれば、翻訳を始めた当初からコンスタントにやりとりをしているクライアントもいます。いただいた案件にはどれも全力で取り組むことに変わりませんが、翻訳者の特性を把握してビジネスパートナーとして見てくださるクライアントと出会えた場合、相手の期待に応えたい、信頼関係を築きたいと強く思います。

加賀山 : 金融専門誌とは、どうやって知り合ったのですか?

蓑輪 :これもアメリアのトライアルです。じつは他のプロジェクトで募集しておられて、そちらのほうでは採用されなかったのですが、社のかたから、こういう募集もあるのでトライアルを受けてみませんかと言われて、受けたところ、合格。それが現在の仕事です。いまでは、ときどき他の仕事も依頼していただくようになりました。

加賀山 : 良好な関係ができていますね。

飛躍の会社員時代

加賀山 : 翻訳を始められるまえのことを少しうかがいたいのですが、2006年から企業のファイナンスを担当されています。特別な勉強をなさったのですか?

蓑輪 :大学は文学部美術史専攻で、ぜんぜん畑がちがったのです。映画が好きで、小学生のころからハリウッドのクラシックやヒッチコックの映画を観て、すごくわくわくしたのを憶えています。
 大学卒業後は、まず外資系の広告会社のメディア・プランニングで働きはじめました。過去のデータから回帰分析を使って広告費の割り当てを計画するのですが、文系だったので、計算の深いところまで理解できず、ずいぶんもどかしい思いをしました。
 ちょうど、いつかは留学しようと強く思っていましたので、どうせならとMBAをめざすことにしました。高校の数学も忘れていましたし、会計も何も知りませんでしたから、いわばマイナスからの出発でしたが、学ぶうちに、数字の裏にそれぞれの企業のストーリーがあることを非常におもしろく感じました。

加賀山 : 一念発起で留学するところに、意志の強さを感じます。帰国後は?

蓑輪 :MBAを取得して帰国したときには、ある会社のセールス・マーケティング部門に就職したのですが、転職した次の会社で、ファイナンスを担当しながら事業部長の補佐も務めました。そこからはずっとファイナンスや経営企画にたずさわりました。投資家への開示情報については、年に4回資料を作っていました。経営資料や内部監査資料の翻訳をすることもありました。

加賀山 : そのまま企業幹部に出世しそうですが(笑)、どこから翻訳をしようと思われたのですか?

蓑輪 :仕事は楽しかったのですが、MBA時代の友人から「足は3本持っていたほうがいい」と言われたことがあって、それがすごく印象に残っていたんです。もちろん、ひとつのことに集中したほうが専門家になれますけど、バランスをとるために、他の軸を持っていたほうがいいということですね。そこでかつての文学部的なところがよみがえったのだと思います(笑)。
 最初は趣味程度で勉強しはじめて、いつか翻訳ができればいいなという感じでしたが、結婚、出産などもあって、会社を辞めるならこのタイミングかなと考えました。やはりいまの道に入ったのは、洋画や洋楽に対する小学校時代からの憧れがあったからだと思います。

プロフィールでアピールする

加賀山 : 仕事を開拓するためのポイントというか、コツのようなものはありますか?

蓑輪 :私はアメリアの自己PR――プロフィールのところですね――あれをこまめにアップデートするように心がけています。
 留学時代にも、自分の履歴書を完璧にしなさいと言われました。動詞ひとつとっても、積極的な単語を使うとか、新たに達成した業績やプロジェクトがあれば転職の予定はなくても履歴書を更新しておくといったことです。私はSNSもブログもしていませんので、自己アピールする場所はあそこしかありません。何か新しい仕事をしたら、かならず書き加えるようにしています。
 あとは、まわりの人に、いま翻訳でこういう分野をやっているよと伝えておくと、何かの機会に仕事に結びつくことがあります。先ほど話した仮想通貨のホワイトペーパーの案件もそうでしたが、知り合いからの紹介では自分にとって比較的新しい分野の仕事を依頼される場合が多いです。そしたらまた、プロフィールに載せられるものがひとつ増えて、実績になっていくのです。

加賀山 : 実績が積み重なっていく。

蓑輪 :そういうことです。雇う側としても、何も情報がない人には、よほどのことがないかぎり仕事は頼みにくいでしょう。トライアルに行き着くまえに落とされてしまうかもしれない。

加賀山 : 金融翻訳者のコミュニティのようなものもあるのですか?

蓑輪 :いくつかはあるようですが、私の場合、子供が生まれてからなかなか外にも出られなかったので、今後はそういうネットワークを広げていくことが課題です。翻訳者コミュニティに参加して、勉強法を学んだり、意見交換したり、お互いちがった分野に進出する手助けをしたり、切磋琢磨し合うことができるのではないかと。

加賀山 : 勉強法というか、情報収集などでふだんから気をつけていることはありますか?

蓑輪 :経済関連の新聞や雑誌、経済ニュースなどには日頃から注意を払っています。株価の変動そのものにあまり興味はなくても、その裏には事業の成否とか、カリスマ経営者の言動とか、さまざまな原因があるはずで、週刊誌的に楽しめる要素を見つけて情報を追っています。
 翻訳面では、ここしばらくできていないんですが、うまいと思うかたの翻訳と原文を突き合わせて読んでいく勉強を再開したいです。

加賀山 : まったく賛成で、個人的にはそれがいちばん身につく翻訳の勉強法だと思います。

■会社員時代には、美術史専攻でありながらファイナンスをやっているという異色の経歴がおもしろがられたというお話でした。たしかに、ファイナンスというと堅い人というイメージを持たれがちかもしれません。ぜんぜんそうではないところが印象的でした。足が3本どころか、4本にも5本にもなりそうなポテンシャルも感じます。出版翻訳にもぜひ。

トップへ