【アメリア】Flavor of the Month 19 川井田 ひろみさん
読み物
Flavor of the Month
<第19回>  全4ページ


リーディングから翻訳へ 思いもかけず大きなチャンス到来


川井田
:実は、これだけでは終わらなくて、最初にリーディングをしたドイツ語の本の著者が書いた別の本の、今度はリーディングではなくて翻訳をしてみないかという話をいただいたんです。昨年の6月のことです。


坂田:ビッグ・チャンスですね! 本を一冊訳す機会なんて、そうあるものではありません。それまでのリーディングの実績が認められたのでしょう。それにしても、最初の“ダメもと”精神での応募がなければ、何も始まらなかったわけですから、“きっかけ”をつかむことが大切なんですね。

川井田:出版翻訳の経験は皆無だったので、まず履歴書と職務経歴書を提出しました。結局、10ページ分の試訳、以前に書いたリーディングのレジュメなどを検討して決めてくださったようです。

坂田:やはり、リーディングの仕事は重要なんですね。

川井田:リーディングのレジュメの書き方は、担当者の方に教えていただいた通りに実践していました。書き方がまったくわからなかった私に、「ただ内容をまとめるのではなく、自分がもしこの本を訳すとしたら、どのような文体にするか考えながら、その文体でレジュメを書くといいですよ」、「タイトルや目次も、直訳ではなく、自分なりに考えて付けたほうがいいですよ」と教えてくださったのです。

坂田:なるほど。翻訳者を探している出版社にとって、非常に参考になるレジュメだったというわけですね。

川井田:翻訳したのは“資産管理の観点からライフスタイルを見直そう”という内容の本で、原書は約300ページだったのですが、なにしろ出版翻訳なんて初めてです。映像の仕事は長くても10日ほどで終わりますので、1日にどれだけやればいいか、だいたい検討がつくのですが、300ページとなると、どういうペースで訳せばいいのかまったくわからなくて……。結局、3カ月弱の時間をいただいて、ページ数を日数で割って1日に何ページやるのか決めて始めたのですが、やはり出だしは思ったように進まなくて、この調子で本当に最後まで訳せるのかと、不安になりました。

坂田:だんだん訳す速度も速くなるのでしょうが、最初が進まないと焦りますよね。

川井田
:最初の100ページが辛かったですね。長丁場ですから、中だるみもあって、最後の1カ月、残り1週間と、納品が近づくにつれ、もう大変! 毎晩、深夜まで仕事をする日々が続きました。

坂田:自宅で自分のペースでできる仕事というのは、いい面もありますが、自己管理が必要な分、辛いこともあるでしょうね。また、主婦で、お子さんもいらっしゃると、そのあたりのやりくりも大変ではないですか?

川井田:そうですね。翻訳は、ひとりの時間じゃないとやりづらいので、昼間、雑事に追われてしまうと、結局深夜にやらなければならなくなって……。自宅でひとりきりの仕事だと、気が散りやすいということもありますしね。

坂田:出版と映像と、両方の仕事をこなしてきたわけですが、自分ではどちらが向いていると思いますか?

川井田:実は、本を一冊訳し終わった段階では、「もういやだ、やめよう!」と思ったんです。でも、10月の終わりに訳了して、その後、監修の方のチェックを受けて12月に最終版を納品。実際に、本が書店に並んだのは半年後の今年の6月でした。映像には、自分の訳をナレーターさんが読んでくれて、それがテレビから流れてくるという面白さがあるのですが、出来上がった本を目の前にしてみると、そこにはまた違う感動があって……。手元に残るんですよね。出版翻訳も面白いな、って思えてきました。今は、出版も映像も、どちらの仕事も広げていきたいと思っています。

坂田:両方の経験を活かし合えば、さらにいい仕事ができるのではないでしょうか。

川井田:つい最近、メジャーリーグの有名な選手4人のドキュメンタリーをまとめた本のリーディングをしたんです。本来スポーツものは、読者も男性が多いということで、男性の方にリーディングを頼むことが多いそうなんですが、私がスポーツ番組の翻訳をしていることを知っていた担当者の方が、思い出して声を掛けてくれたんです。とても面白い内容で、私が最初の読者なんだと、ちょっと得した気分になりながら、楽しく読ませていただきました。

坂田:映像での経験が、出版に生きたわけですね。ところで、出版と映像では、同じ翻訳とはいっても作業の内容が違いますよね。それは負担にはなりませんか?

川井田:負担というよりも、むしろ気晴らしになっていいです。映像翻訳は、ビデオを見ながらですので、自宅でしかできませんが、リーディングは本と辞書さえ持っていけば、図書館や喫茶店でもできますから、気分転換することができます。翻訳にかかる時間が違うのも、メリハリができて私にとってはいいですね。

坂田:ほかにはどんな仕事をなさっていますか?

川井田:クラシック音楽のドキュメンタリー番組の字幕翻訳の経験があります。こちらは、翻訳会社のホームページでドイツ語翻訳者を募集していたので、履歴書を送りました。

坂田:積極的にチャンスを広げる努力をなさっているのですね。
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