【アメリア】Flavor of the Month 32 吉池幹太さん
読み物
Flavor of the Month
<第32回>  全4ページ


いちばん好きな本は『ライ麦畑』 でも、邦訳には違和感あります


宮田:実際に先生になってみて、どうでしたか?

吉池:英語の教育には、ものすごくやりがいを感じてます。つまらないと思ったことは一度もない。英語を教えることで、いちばん大切なのは、いかに生徒に英語に興味をもたせるかってことだと思うんですよ。学校で教えられる文法や単語なんて、たかが知れてる。英語に興味さえもってもらえれば、自然に勉強しようと思うものです。授業では、ぼくという人間を通した先に見える英語をいつでも感じさせるようにしていました。もちろん最低限のことは教えたけど、それ以外にも、アメリカでの自分の経験を話したり、海外のペンフレンドに手紙を書かせたり、インターネットのホームページを読んでみたり、ロックの歌詞や映画の脚本を教材に使ったり。そうしないと興味をもってもらえなし、興味をもたなければ、英語の力は伸びないから。

宮田:とってもおもしろそうな授業ですね。わたしも高校生のころ、そういう授業を受けてみたかった。ところで教員をしながら、翻訳の勉強をはじめたきっかけは何だったんでしょうか?

吉池:教員の仕事にだんだん慣れてきて、英語の教育にもやりがいを感じてたんだけど、先生といっても、やっぱりサラリーマンっぽいところがあって、それが気に入らなくて……。職員会議とか先生どうしの人間関係とかに嫌気がさしてきたんです。詩人以外でも文章を書いて食べていけばいいなと思って、じゃあ翻訳でもやってみようかとなりました。ある意味、かなり打算的な部分がありましたね(笑)。翻訳の分野を選ぶときも、本当は純文学の翻訳をしたかったんだけど、純文学だと絶対数が少ないうえに大学の先生に仕事が回ることが多い。「じゃあ、エンターテインメントですよ」なんて、たしかフェローのスクールカウンセリングで言われました。エンターテインメントといえばスティーブン・キングぐらいしか読んでなかったので、本腰を入れて勉強しはじめたのはそれからです。


宮田:そうなんですか。吉池さんはサブカルチャー系に強いし、エンターテインメントは昔から大好きなのかと思ってました。ちょっと意外ですね。


吉池:ぼくは、ばりばりの文学青年でしたよ(笑)。ヒマさえあれば、詩を読んでたし。

宮田:アメリカ文学では、たとえばどんな作家が好きなんですか?

吉池:サリンジャー、レイモンド・カーヴァー、フィッツ・ジェラルドあたりかな。カポーティも読んだし。

宮田:いちばん好きな本を1冊だけあげるとすれば?

吉池:ベタだけど、はじめて英語で読んで感動した『ライ麦畑』かな。

宮田:ライ麦畑といえば、村上春樹の新訳でも話題になったけど、日本語の翻訳はどうでした?

吉池:ぼくが最初に読んだのは原書だったから、そのイメージがいちばん強い。日本に帰ってきて野崎訳を読んだし、あれはあれでおもしろかったけれど、やっぱり違和感はありました。最近、村上訳が出たけど、やっぱり違和感はありましたね。ぼくは村上春樹が大好きで、とっても楽しみにしてたんだけど、それでもやっぱり……。

宮田:具体的には、どんな違和感?

吉池:変な話、ホールデンが日本語でしゃべっていること自体、おかしいわけで……。

宮田:それじゃ、誰の訳でも違和感を覚えちゃいますね(笑)。

吉池:どうやっても原書が一番大きくて、翻訳はそれとは完全には重ならず、どんどん小さくなっていくと思うんです。だから、ぼくは基本的には原書で読んだものを日本語で読むことはあんまりしない。でもまあ、そういう部分に翻訳のおもしろさやむずかしさを感じたりもするんですが。
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