【アメリア】Flavor of the Month 33 東 尚子さん
読み物
Flavor of the Month
<第33回>  全4ページ


自分の実力を試したい!幅広い分野に挑戦したい!

坂田:10年前にチャレンジした最初の『翻訳トライアスロン』では、翻訳者としては“まだまだだ”と思われたということですが、その後、どのように翻訳の勉強をなさいましたか?

:まず、“調べものをとことんやる”ということを一つの目標として掲げました。勉強でも、仕事でも、とにかく納得いくまで調べるということです。ほかには、翻訳専門誌がやっていた誌上添削に応募してみたり、工業英検の勉強を始めたり、少しずつ勉強を積み重ねていきました。

坂田:昨年、9年ぶりに完走を果たしたわけですか、参加するのには何かきっかけがあったのですか?

:ひとつには8年間勤めた会社を昨年の3月に辞めてフリーになったということです。フリーになったばかりで、まだ仕事の量もそれほど多くなく、自由に使える時間があったので、これはいい機会だからやってみようと思いました。

坂田:実務翻訳を長年やってきて、あえて初心に戻って、映像や出版もある『翻訳トライアスロン』に参加しようと決めたのは?

:私の専門は実務ですが、フリーになったことですし、仕事の幅を狭めたくないという思いがあって、自分の専門外のコンテストにも応募してみたいという気持ちがありました。それから、前回の完走から9年経って、自分が今、どれくらいのレベルになったのかということを客観的に知りたいと思ったんです。

坂田:『翻訳トライアスロン』は3種目の分野から出題されますが、まず第1種目は映像ですよね。映像翻訳の勉強をなさったことは?

:実は、実務翻訳をはじめる前に、フェロー・アカデミーの短期集中講座で映像のクラスに通っていたことがあるんです。でも、文章を刈り込んで短くまとめなければならない映像翻訳はとても難しくて、これを仕事としてやっていくのは私には無理だなと思い、別の分野を目指すことにしたんです。

坂田:久しぶりに訳してみた映像翻訳はいかがでしたか?

:やはり、限られた字数の中で表現するというのは、すごく難しかったです。いつもやっているのは実務翻訳なので、訳文を大幅に削るということはありません。それが、映像翻訳だと内容を凝縮しなければならないですから。

坂田:ただ削るだけではなく、“内容を凝縮”するわけですね。

:原文にとらわれすぎずに、そのセリフの気持ちだけをうまく取り出すというか。原文の英語にこだわりすぎないように気を付けました。

坂田:実務翻訳の場合は、どちらかというと原文にこだわるのですか?

:そうですね。多少日本語として流れが不自然であっても、実務の場合、“原文に忠実”というのが基本ですから。その点は、実務と映像はまったく違います。

坂田:同じ翻訳ですが、まったく逆のことをやるというのは、いかがでしたか?

:楽しかったです! これを仕事にすると大変だと思うんですが、課題文はそれほど長くはありませんし、楽しめました。課題に取り組んだあとは、映画を観ても、こういう字幕が付いているんだなと注意が向くようになりました。

坂田:さて、第2種目は出版ですね。昨年は、ノンフィクションの分野からの出題だったと思いますが、いかがでしたか?

:はい、マゼランの伝記でした。私には、3種目の中でこれがいちばん難しかったです。題材が伝記ですので、翻訳の前に史実を調べなければなりません。ほかにも、人名の表記、地名の表記など、調べなければならないことが多かったのですが、慣れない分野なので、どこを、どうやって調べたらいいのかすらわからず、手探り状態でした。

坂田:自分の専門分野だったら、どこを調べればいいのか、だいたい見当がつくでしょうが、初めての分野となると、下準備に時間がかかるわけですね。

:はい。調べものにはかなり時間がかかりました。結局、自分で100%納得できるところまではできなかったのですが、できるだけのことをして提出しました。

坂田:調べものは、どの程度までしましたか?

:インターネットで調べられる範囲で、マゼランに関するサイトにはひととおり目を通しました。その時代にどんなことが起きていたのか、課題に出ていた部分より以前にマゼランは何をしたのか、それ以降、彼はどうなったのか。

坂田:課題以外の部分も調べるのですね。

:課題の翻訳に直接関係はありませんが、それを知っているかどうかが訳文に影響する部分はあるかもしれませんね。

坂田:出版翻訳ということで、実務とは、日本語の文体なども違ってくるのではないですか?

:そのあたりのさじ加減が私にはわからなくて……。どれくらい意訳していいのかな、と迷うことがよくありました。結果的には、どちらかというと実務的な、原文に近い訳になってしまったんじゃないかなと思っています。

坂田:その点、伝記は恋愛小説よりは実務に近い、堅めの文章が合うと思いますから、それがよかったのかもしれませんね。

:そうかもしれません。

坂田:最後の第3種目が、得意の実務だったわけですが、いかがでしたか?

:実務が専門の方は大勢いらっしゃると思いますが、その中でも専門が細かく分かれています。例えば、課題がネットワークに関するものであれば、同じIT分野の翻訳者の中でも、ネットワークを得意としている方に有利かもしれませんが、今回の課題はエンジンについてでしたので、これを専門にしている方というのはいらっしゃらなかったんじゃないかと思います。その意味では、とても公平な課題内容だったと思います。

坂田:そうですか。ではやはり、まずは調べものが重要だった?

:そうですね。翻訳に関しては、やはり慣れ親しんだ実務翻訳ですからスムーズにできました。ただ、専門用語だけ気を付ければ。その分野で用いられている専門用語には決まった訳が付けられていますから、それを間違えないように、きちんと調べました。

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