【アメリア】Flavor of the Month 37 小瀬村 文子さん
読み物
Flavor of the Month
<第37回>  全5ページ


小瀬村 文子さん

第37回
翻訳を意識したのは2年前  “とりあえず”はじめた翻訳の勉強に いまでは“本格的に”夢中です
  小瀬村 文子さん
Ayako Kosemura


ロンドンで出会った日本文学の英訳に衝撃を受けて

坂田:本日のゲストは、翻訳を本格的に勉強し始めて約1年。出版翻訳家を目指して勉強中の小瀬村文子さんにお越しいただきました。小瀬村さん、よろしくおねがいします。

小瀬村:よろしくお願いします。

坂田:小瀬村さんが翻訳に興味を持ったのは社会人になってから、つい一昨年のことだと聞きました。どちらかというと遅い方ですね。何かきっかけがあったのですか?

小瀬村:はい。一昨年、仕事を辞めて、ちょっと日本から離れてみたい、外国で暮らしてみたいという軽い気持ちでロンドンに行ったんです。そのときは留学までは考えていなかったので観光ビザで出掛けていって、ホームステイをしたり、語学学校に通ったりしていました。その間に、初めて洋書を読むようになったんです。もともと本を読むのが好きだったのですが、むこうでは日本語の本は高くて買えませんでした。でも、何か物語を読みたい。それで、洋書を読んでみようと思ったのが最初でした。

坂田:初めて読んだ洋書はいかがでしたか?

小瀬村:やっぱり難しかったです。でも、そんなふうにして洋書を読んでいると、むこうで知り合った友達に「日本の作家を紹介して」と言われるようになったんです。それで、書店に行くと日本人作家の作品の英訳本を探すようになりました。あるとき書店で私の好きな遠藤周作の、中でもお気に入りの作品を見つけました。友達にプレゼントしようと思って買ったのですが、その前に自分でも読んでみようと思って。自分が好きな作品だったし、覚えている好きな台詞もあったので、ああいうのはどんなふうに英語で表現されているんだろう、と興味もあったし。それが翻訳に興味を持ったはじめでした。

坂田:実際に読んでみて、いかがでしたか?

小瀬村:舞台が日本の漁村で、時代は戦国時代ぐらいだったでしょうか。たしか原作では村人は強い訛りでしゃべっていたんです。それが、英語で読むと、当然なのかもしれませんが、そういう訛りがまったくない。原作ではもっと訥々と語っていたと思うのに、英語になると村人の会話がすごく流暢なんです。驚きました。

坂田:原作を読んだ印象とかなり違ったということですね。

小瀬村:それから、私の好きな台詞を探しながら読んでいたのに、結局見つからないまま最後まで読み終わっちゃって……。あれ、あの台詞はどこだったの? おそらく、さらっと美しく訳されていて、ひっかからなかったんでしょうね。このことが、私にとっては結構ショックで、「翻訳というのは難しいんだな」とそのとき思いました。

坂田:図らずも、原書と翻訳本の読み比べをしたわけですね。

小瀬村:これを逆に考えると、私がこれまでたくさん読んできた海外の小説の翻訳本も、本当の意味で味わっていなかったのかなと。なんていうのか、筋はあっているんだろうけど、例えば、漁村のにおいとか、村人たちの苦労とか、そういうエッセンスが失われていたのかもしれないと。そのときは、そう感じて、すごく衝撃を受けました。でも、本当はそんな単純ではなくて、そこまで翻訳で表現するのは非常に難しく、それでも翻訳には意義があるということが、翻訳を少しは勉強した今ならわかるのですが……。ただ、そのとき私が考えたのは、エッセンスが抜けちゃっているとしたら、それは残念だけど、だからといって絶望しちゃいけない、どうしてそうなるのか、自分で翻訳をやってみて、もっと翻訳のことを知りたい、ということだったんです。

坂田:自分が感じた衝撃は、何が理由なのか、どうしてそうなるのか、自分で確かめてみたいと。

小瀬村:ただ読者として出来上がった翻訳を読んでいるだけではわからないし、とても難しそうだからこそ、自分自身で苦労してみないとわからないと思ったんです。

坂田:最初に、とても翻訳の奥深いところに触れてしまった、という感じですね。

小瀬村:実はそのあと、映画でも同じような体験をしたんです。日本の映画、確か安部公房原作の作品だったと思いますが、それを英語の字幕つきで観たていたら、田舎の人が出てきて日本語では強い訛りで話しているのに、英語の字幕ではさらりときれいに訳されているんですよね。ああ、ここでも同じだと思って、やはり翻訳を勉強してみたいと思ったんです。
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