【アメリア】Flavor of the Month 47 穴沢良子さん
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Flavor of the Month
<第47回>  全4ページ


派遣で出会った翻訳の仕事で本領を発揮

坂田:留学はどのくらいしたのですか?

穴沢
:4年弱で社会科学部を卒業しました。それからいったん日本に帰ってきたのですが、まだまだ勉強したくて、資金を貯め、今度は看護学でアメリカの大学院に入りました。

坂田
:ここで看護師の知識と英語が出会うわけですね。

穴沢:はい。この時、アメリカで看護学を勉強できたことが、後の翻訳ですごく役に立ちました。ただ、実はこのときは半年後に体調を崩してしまい、休学して日本に戻ってきたんです。そのときは復学の意志があったのですが、結局復学はしませんでした。

坂田:そうですか。それは残念でしたね。でも、これらの経験が、その後の人生の役に立っているのですから、素晴らしいですよね。さて、日本に帰国し、それからどうしましたか?
英語に関する仕事を探した?

穴沢:英語に関する仕事をしたいという気持ちは、実はまるでなかったんです。今思えば、すごく傲慢な考え方なのですが、英語を使った仕事をするのは、英語しか特技がない人であって、自分は英語を能力の一部として使いながら学問や仕事をしたいと思っていました。私の中では英語の勉強は24歳で留学が決まった時点で完了していたんです。もちろん、留学から返ってきた時点でも私の英語は完成されたものではなかったけれど、それでも適当に使えるからそれでいいやって。当然、翻訳をするなんてことはその時点ではまったく考えていませんでしたから。

坂田:では、お仕事は何を?

穴沢:それから数年間は、看護師としてくたくたになるまで働いていましたね。派遣だったので、その間に看護師以外の仕事、例えば英文事務なんかもしましたが。

坂田:せっかく留学したのに、もったいないと思うのですが……。

穴沢:留学をしたときに看護師を辞めたつもりはないんですよ。国家資格だし、仕事としては看護職は自分が目指していたものですし。久しぶりに戻った看護の現場は、すごく面白かったです。今振り返って考えると、留学をしたのは、高校のころからずっと狭い世界にいて、ある種のコンプレックスがあったのかもしれませんね。医学の知識はあるけれど、政治や経済のことはわからない。そんな勉強はまったくしてきませんでしたから。新聞読んでも理解できない。自分自身、それがすごくいやだったんだと思います。

坂田:それで思う存分勉強をしたから、安心して、またちゃんと看護職に戻れた。

穴沢:そうそう。その後はいろんなところにアンテナを張って、情報や知識を吸収して、そういうことができるようになったと思います。

坂田:では、翻訳にはいつ頃出会ったのですか?

穴沢:すみません、翻訳までが長いですよね(笑)。実は、つい最近なんですよ。35歳のときです。その1年ぐらい前に、派遣会社を通して製薬会社の治験のコーディネーターの仕事をしたんです。治験ってご存じですか?

坂田:いいえ、わかりません。教えてください。

穴沢:新しい薬を開発する際に、その安全性や有効性を確認するために実際の患者さんに薬を投与する治療試験のことです。もちろん患者さん同意の上で、万一健康被害があった場合にはきちんと補償が行われます。私の仕事は、医者と患者の間に立ってコーディネートをして、新薬での治療を進めていくことでした。それをきっかけに、それまで意識していなかった製薬業界に関心を持つようになったんです。それから次に派遣になったのが外資系の製薬会社で、医薬品の副作用情報を英訳してデータベース化するという仕事でした。ここで初めて翻訳に出会いました。

坂田:ご自身で翻訳を希望したわけではなく、派遣先の仕事がたまたま翻訳だった?

穴沢:そうです。翻訳なんて私にはできないと思ったんですが、社長さんに「単語を並べ換えるだけだから」って言われて。もちろん、もっと難しかったんですけどね。この仕事が、まさに私向きだったんです。それまでに医療の現場で看護師として、患者さんにこういう薬を投与したらこうなったという現状を見てきましたから、翻訳すべき元の日本語データは私には見慣れたものでした。医者の書く字が解読不能なほど下手なことにも慣れていました。それを英語にしていくわけです。医学英語は留学中に看護学を学びましたから、ある程度はわかります。看護師としての知識や経験をベースに英語を使って仕事をする、これは私のためにある仕事じゃないかと思いました。

坂田:ただ英語を使うだけじゃなくて、ご自身の専門知識をフルに使う、理想的な仕事だったわけですね。

穴沢:私の今までの人生がすべて集約されたような仕事!

坂田:その仕事は求めたわけではなく、派遣されて行って偶然出会った。

穴沢:そうです!

坂田:でも、派遣だと期限がありますよね。

穴沢:そうなんですが、私の能力をフルに生かせる仕事だったので、結構高い評価をいただいたんですね。それで、もっと続けてほしいと言われて、途中からは契約社員になってトータルで3年ほど勤めました。ただ、会社勤めというのは、翻訳だけやっていればいいだけじゃないですよね。契約社員になると翻訳以外にも会議に出たり、研修にも参加しなければならなかったり、人間関係の大変さも出てきて……。そんなとき、インターネットを見ていたら"フリーランス通訳"というのが出ていて「これだ!」って。

坂田:翻訳ではなくて通訳?

穴沢:はい。たまたま見つけたのが通訳学校のサイトだったんです。それで通訳の勉強をしようと、学校に通い始めたんです。そこで、自分の英語力のなさに愕然としました。

坂田:でも、留学もして、翻訳のお仕事もしていたわけですよね。

穴沢:最初は自分の英語力で大丈夫だろうと思っていたんです。でも、講座に通い始めると、本当に語学を武器に仕事をしている方といっぱい出会って……。自分は、看護というバックグラウンドがあるにしても、英語で仕事をするためには、語学のプロじゃなきゃいけないんだということにようやく気づいたんです。もう、そのときは、私はなんて英語ができないんだろうと思って、ショックでしたね。それで、英語の基礎力を鍛え直さなければと思い、会社を辞めて本格的に勉強をしようと決心しました。
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