【アメリア】Flavor of the Month 61 小坂恵理さん
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Flavor of the Month
<第61回>  全4ページ


金融やゴルフ、野球など、得意分野で本領を発揮

坂田
お仕事の幅を広げるために、インターネット上のオーディションサイトにも登録されて、トライアルに応募していたそうですね。

小坂:はい。ただ、先に申し上げたとおり、速く訳すのにはある程度自信があったのですが、うまく訳すとなると私よりも上手な人はたくさんいて、トライアルでも最終選考くらいには残るのですが、なかなか合格しませんでした。それでも頑張って課題を提出し続けていて、初めて合格したのがゴルフに関する書籍のトライアルでした。
このトライアルには、「ゴルフ経験者に限る」という条件が付いていたのですが、社会人になってゴルフを始めた長男に誘われて、私もちょうど始めたところだったんです。結果を見てみたら、この条件のおかげで参加者が少なかったようでした。『ゴルフ「ビジョン54」 実践編』(ランダムハウス講談社刊)という本です。

坂田:翻訳にはいろいろな趣味や特技が生きてくることがありますよね。それと、諦めずに挑戦し続けたことがよかったんでしょうね。

小坂:このあとに『ドル帝国の崩壊』(イーストプレス刊)という本を訳したのですが、ゴルフの本のお仕事をいただいたプロダクションの方から、「短納期なので、無理なら2人で、でもできれば1人で訳してもらえませんか」というお話をいただき、ぜひともやりたい作品だったので、1人でできますとお答えして受けました。国際金融をテーマとした近未来小説なんですが、ちょうどリーマンショックで世界経済がおかしくなる少し前でタイムリーな内容だったんですよね。

坂田:初のフィクションの翻訳だったんですね。納期はどのくらいですか?

小坂:1カ月ほどでした。報道の翻訳をしていたことがあるので、金融について概略はわかるのですが、細かいことは知らないので、調べものが多くて大変でした。「先物買い」「ロング/ショート」などの専門用語が、最初はわかりませんでした。

坂田:調べものも含めて1カ月というのは大変そうですね。小説ということで、日本語表現も難しかったのでは?

小坂:そうですね。もともと真山仁や幸田真音などのハードボイルド作品が好きでよく読んでいたので、その文体を参考にして訳しました。この作品、著者が日系アメリカ人で日本も舞台のひとつなんですよ。でも、日系とはいえ日本の事情にはあまり詳しくないので、日本人が読むとちょっとおかしいようなところも出てきました。例えば、主人公はまだ40代なのに、出世して最後には外務省の次官になるとか。40代の次官というのはありえないですよね。日本の読者が読んで違和感を覚えるようなところは指摘してくださいと言われて、編集の段階で直したりもしたようです。

坂田:そのような点を指摘するのも、翻訳家の仕事の範疇なんですね。次に訳したのはどのような本ですか?

小坂: 『オバマ大統領就任演説』(ゴマブックス刊)というDVD付きの単行本でした。ここには大統領戦に勝利した際の「勝利演説」などの英語と日本語が対訳で収録されていますが、なんと言っても目玉は「大統領就任演説」です。2009年1月20日の就任演説は日本時間の1月21日未明に行われたのですが、朝起きたらメールで原文が届いていて、その日のうちに訳して編集者に送りました。できたところから少しずつ送ったのですが、編集部ではチェッカーの方が控えていて、送られてきたらすぐにチェックをして、また私に送り返してきます。それを繰り返して、翌日には完全に仕上げて、すぐに印刷、演説の1週間後には出版という運びでした。

坂田:まさに一刻を争っての出版だったわけですね。

小坂:その通りです。複数の出版社から出ましたので、遅れを取るわけにはいかなかったのでしょう。このときはテレビでも同時通訳や字幕で演説が放送されていました。そういうものに影響を受けると困るので、極力見ないようにしました。

坂田:では、このときの翻訳が今までで一番大変だった?

小坂:納期という意味ではそうです。でも実際に一番大変だったのは、この後に訳した『さらばヤンキースーー我が監督時代』(青志社)でした。私は野球が好きで、メジャーリーグにもとても関心があります。著者のジョー・トーリ元ヤンキース監督が不本意にも退任に追い込まれ、その後ヤンキースの内幕を暴露するかたちで書いたのがこの本なのですが、2009年のワールド・ベースボール・クラシックに合わせて出版したいということで、翻訳者7名で分担し、私が全員の訳文をとりまとめるということになりました。短納期ということもあり、みなさん大変だったようです。ばらばらな文体を統一してまとめるのに非常に苦労しました。

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