【アメリア】Flavor of the Month 85 崔 樹連さん
読み物
Flavor of the Month
<第85回>  全5ページ


多忙な毎日を支えるのは翻訳への情熱。育った環境や身につけた教育を最大限に広げ、邁進する毎日。

岡田 :日夜、同時進行で多数のドラマや映画などの映像翻訳に向き合う日韓バイリンガルの崔さん。今日はバイリンガルの視点からさまざまなお話をお聞きすることができました。崔さん、今後崔さんが目指すビジョンをお聞かせ願えますか?

:そうですね、いつか韓国のサイバー大学に入学できればいいなと思っています。そこに通訳翻訳学科があるので、日本で暮らしながらそこで学ぶことを目指しています。かなり厳しい毎日になりそうですが……。お世話になっている有名な翻訳家の師匠も、家族を抱えながら大学院に通って苦労もあったと聞きますが、いつか私も挑戦してみたいと思っています。

岡田 :なるほど、それは通訳翻訳の腕をさらに極めるという感じですね。そうするとますます人気が出てまたお忙しくなって、体力がたいへんですね(笑)。

:どうなんでしょうね。結局今と同様、編集の方のチェックマークが踊ることになるのでは(笑)。今でも自分が情けなくてよく泣いているんです。何度も泣いてますよ。あんまりできないと思うと悔しくて……。もう辞めようと思うことも何度もありました。

岡田 :でもその度に立ち上がる何かがあるんですね。

:やっぱり翻訳が好きだから。この過酷な肉体労働は好きでなければできませんよ(笑)。本当に好きなんでしょうね。映像以外でも台本を訳したり、新聞など紙媒体を訳したりすることもありますが、やっぱり映像が楽しいですね。紙媒体だけやっているとつまらなくなる性分なのかもしれません。

岡田 :根っからの映像翻訳者さんなんですね。ところで何かご趣味は?

:実は子どもの頃から書道を学んでいて、師範を持っているんです。有名な師匠のところに弟子入りして、看板をもらいました。書道で生きていこうと思っていたのですが「これでは食べていけないな」と気づくのに15年かかりました(笑)。

岡田 :それは立派なご趣味! 今でもしばしば筆を握ることが?

:今では全然握っていませんが、すぐに勘が戻ると思います。書道は息継ぎとリズムの感覚が翻訳と似ているんです。ずっとピアノと書道と絵を習っていたんですが、今役立っているのはリズム感。字幕で大事だと思うのはリズム感なんです。そこに気づくのに5年くらいかかりましたね。きっと吹き替えでも、上手な方はリズム感のある人なんだと思います。

岡田 :なるほど。翻訳とリズム感、確かにありますね。崔さんは育った環境や教育を最大限に広げ、さらに飛躍されています。ひとつひとつの経験が血となり肉となっているんですね。これから韓国語翻訳を目指す方に、崔さんからメッセージをいただけますか?

:そうですね、正直、厳しい世界だと思いますが、映像などの分野にとらわれず、いろんなことができるといいと思います。広く、なんでも受け入れられるようにしておくといいですね。そして何より「好き」であることでしょうか。私もそれに支えられてここまで来ましたから。人やご縁に恵まれることも大切だと思います。

岡田 :崔さん。今日はお忙しいなか、本当にありがとうございました。ひたむきに映像翻訳に向き合う崔さんに、ふだんあまり考えることのない言語とアイデンティティーについて考えを深める機会をいただきました。お忙しい毎日だとは思いますが、どうぞお体に気をつけて、益々のご活躍をお祈りしています! 


2014年5月5日にDVD『がんばれ、ミスターキム! BOX1』発売予定。
「新大久保ドラマ&映画祭」で日本初上映する 『隣人』の字幕翻訳を担当

■ご自身を「ひきこもり」と笑いながら、忙しい毎日を前向きに乗り越えている崔さん。楽しく優しいお人柄に、会話もはずんで有意義な時間を過ごすことができました。「社会と言語」、「言語とアイデンティティー」に考えを巡らせ、自分にとっての母語を考える機会をくださいました。テレビで人気の韓ドラを見るたびに、崔さんのやさしい笑顔を思い出すことと思います。崔さん、これからも日本での韓流文化の振興を支え、両国の架け橋でいてください!

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