ニュース翻訳、英訳でご活躍の小野久美子さん Flavor
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Flavor of the Month
<第118回>  全7ページ
全国紙の英字新聞部に転職し、翻訳の基礎を学ぶ。 英語漬けで仕事をする毎日は、イギリス留学よりも語学の勉強になった!

高橋 :英字新聞部のお仕事とは、どのようなお仕事なのでしょうか。

小野 :ニュースの英訳と紙面編成が主な仕事で、たまにインタビュー取材もしました。ここでは、翻訳の基礎を学ぶことができたと思います。「一字一句もらさずに訳す」「意訳をせずにできる限り日本語に近い形で訳す」といった、当たり前のことからです。ネイティブや翻訳デスク(チェッカー)にリライトやチェックをしてもらった後の原稿を、すぐに確認するのはとても勉強になりました。

高橋 :ニュースの英訳は、最初はどなたか先輩に教わりながら?

小野 :いえ、いきなり「これやって」でした(笑)。数行だけのいわゆるベタ記事を何時間もかけて英訳して出稿したんですが、「これじゃだめだ」とデスクに怒られました。

高橋 :いきなり実戦投入されたんですか。大変そうです。

小野 :最初はとても疲れました(笑)。静岡新聞で早朝から深夜まで働いていたときも大変でしたが、取材で社外にいることが多かったので気分転換もできたんですよね。でも英字新聞部の場合は出社から終業まで社内で仕事をするので、慣れるまでは疲れました。ネイティブのリライターの方から、英訳した日本語について「ここはどういう意味?」と突然話しかけられますし、ランチで話す言葉も英語です。英語が堪能な日本人スタッフが多くて、大変なプレッシャーでした。最初は気が張って疲れてしまい、祖母に状況を話したら、「まず3日頑張れ、次に3ヵ月頑張れ、そして3年間頑張れ」と言われました(笑)。だんだん慣れていきましたが、始めは出社するのが怖かったです。叱られることよりも、ミスが怖かったですね。スペルミスはもちろん、固有名詞などのミスは信用に関わりますから。

高橋 :入社前に受けたTOEICは920 点ほどだったとか。英語は堪能だったのでは。

小野 :自分でもそう思っていたのですが、違いました。ニュース翻訳は、さまざまな文章を扱います。たとえば囲碁の記事を英訳する場合、専門用語や詳細なディテールが多く、囲碁のことを知らないと、日本語でも何が書かれているのか分からないようなものもあります。短い記事なら翻訳も短時間で済むかというと、内容が難しくてとても時間がかかるものもあります。ありとあらゆる内容の記事を英訳しなければならないので、七転八倒しながら取り組みました。ただ、ネイティブの方が一緒に表現を考えてくれることもあり、周囲の方が助けてくれた点で恵まれていたと思います。

高橋 :先ほどおっしゃった「意訳をせずにできる限り日本語に近い形で訳す」というのは直訳に近い訳し方ということですか。

小野 :そうです。意訳を行うと、日本語の元記事と英語を照会したデスク(チェッカー)から、「意味が違うんじゃないか?」と厳しい指摘が入るんです。こなれた英語に直すのはネイティブのリライターの仕事ですから、日本語から英訳する際は、一字一句もらさずに、日本語から英語へストレートに訳します。先日も英字新聞部の先輩と話す機会があって、「英文がうまいかどうかは問題じゃない」「どれだけ正確に訳すかの方が大事」と改めて言われました。私たちが作っている新聞は、あくまでも日本語の新聞社の英字紙であって、その新聞の記事を英文で正確に発信するメディアですから。

高橋 :8年半勤められて、とても勉強になったのではないでしょうか。

小野 :なりました。毎日英語漬けで、英語の勉強という意味ではイギリスの大学院よりも勉強になったと思います(笑)。やはり実践が大事なんですよね。「ウィキペディアに頼りすぎない」、などは当たり前のことですけれど、リサーチ力も身につきました。

高橋 :英字新聞部での1日はどのようなタイムスケジュールでしたか。

小野 :翻訳を担当する日は、10時〜10時半に出社すると、その日の統括デスク(紙面に載る記事を選んで指示を出す人)から翌日用の原稿を渡されて翻訳します。翻訳したものが翌日の紙面に載りますので、特に1面記事の翻訳はスピード勝負です。それを1、2本翻訳して、あとは急を要さない翻訳をしたり、特集面のページを組んだりします。翻訳だけではなく、国際面をつくることもありました。前日に配信されたワイヤーサービスのAP、ロイター、AFP、ブルームバーグなどをチェックして素材をピックアップし、デスクのOKが出たものを、見出しもつけて紙面に構成していきます。どの作業でも、大量の英語を読むことになります。

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