子ども向け科学書と大人向けポピュラーサイエンスの翻訳者、片神貴子さん Flavor
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片神 貴子さん

第124回

子ども向け科学書と大人向けポピュラーサイエンスの翻訳者 片神 貴子さん

Takako Katagami
理系の知識を活かして、科学分野の翻訳を

加賀山 :本日お話をうかがう片神貴子さんは、おもに子供向けの科学書を翻訳されています。
『科学キャラクター図鑑シリーズ』(玉川大学出版部)や、『光の発見──ニュートンの虹からレーザーへ』(文溪堂)など、たくさん訳しておられますが、この分野に進んだ経緯からうかがえますか?

片神 :電機メーカーで4年ほど技術職として働いていたのですが、体調を崩して退職。一生続けていけるような仕事を探していたときに、翻訳はできるかなと考えました。
 最初は実務翻訳をしていましたが、出版のほうも手がけたいと思い、アメリア(当時はFMC)に入会しました。そのころ関西に、田村義進先生に教えていただく関西アメリア勉強会という会がありまして、そこで勉強するうちに、メンバーのかたから下訳の仕事をいただくようになりました。
 子供向けの科学書の翻訳に興味が湧いたころ、アメリアで児童書翻訳の募集があったので応募してみたところ、ありがたいことに採用していただき、その後はずっとこの分野を中心に働いています。

加賀山 :その募集はトライアルでの選考だったのですか?

片神 :急ぎの仕事ということで、書類選考だけでした。そのまえに勉強仲間との共訳で自然療法の百科事典を訳していたので、そこを評価していただいたのかなと思います。

加賀山 :すでに実績があったのですね。大学は理系でした?

片神 :はい、物理学専攻でした。子供のころから自然が好きで、虹はどうしてできるのとか、電車のなかにいる虫はどうして車輛の壁にぶつからないのとか、親にいろいろな疑問をぶつけて困らせていました。

加賀山 :いちばん新しい訳書は『われら科学史スーパースター』(玉川大学出版部)ですね。

片神 :はい、今年出た、科学者の事典のような本です。科学者本人が登場して自分の業績を説明する絵本、図鑑といった内容ですね。しっかり理解できるのは小学校高学年以上だと思いますが、訳すときには小学3〜4年あたりを想定しました。

加賀山 :これまででとくに印象に残っている訳書はありますか?

片神 :たとえば、『ノーベルと爆薬』(玉川大学出版部)という本は、原著が40年ほどまえのもので、すでに邦訳もありました。訳自体は古くなっていたのですが、図版はすごくいいので、これからも残したいという希望が出版社にあり、新訳をさせてもらいました。ただ、宗教的な背景など、日本の読者に理解してもらうには工夫が必要だろうということで、日本版だけ特別にコラムを追加したり、ヨーロッパの地図を入れたり、訳したあとでかなり独自に作り上げた一冊でした。

加賀山 :原書を訳しただけではないのですね。

片神 :そうですね。出版社の方針にもよりますが、『われら科学史スーパースター』でも、世界の有名な科学者が取り上げられているなかで日本の科学者がひとりもいなかったので、編集のかたと相談して、原書にはなかった日本人科学者をふたりほど入れました。イラストも描きおろしてもらい、原著者の許可を得て、オリジナルの日本語版を作りました。
 もちろん、その種の編集を加えずに、そのまま訳すだけの出版社もあります。

加賀山 :いまの出版社との関係は、アメリアをつうじてできたのですか?

片神 :子供向けの科学関連書籍の普及を図る「科学読物研究会」という団体に入っていて、そこをつうじて知り合いました。出版社のかたや、写真家、図書館の司書、学校の先生、翻訳家といった個人・団体合わせて300名ほどのメンバーがいる団体で、月1回の例会のほか、出版社への訪問なども企画しています。

加賀山 :そんな団体があるとは。ぜんぜん知りませんでした。

片神 : けっこう歴史のある会です。あとは、インターネットでオーディションを受けて仕事をいただくこともありました 。

加賀山 :最初から子供向けの科学書が目標だったのですか?

片神 : 童話とか絵本といったほかの児童書の翻訳も学んでみましたが、みずから詩や小説を書ける文章レベルにはなれないなと思い、やはり科学的な知識を活かしながら翻訳をするというところに落ち着きました。

加賀山 :とはいえ、ご自身で執筆した著書もありますよね。

片神 : そうですね。翻訳でお世話になっている編集プロダクションのかたから話があって、科学読物研究会のメンバー3人と、理科の教師をなさっているかたと、2年がかりで仕上げた本ですが(『ぐるり科学ずかん 変身のなぞ』)、これはとてもたいへんでした。知識の引き出しがたくさんあって一から書けるかたはいいのですが、私にはやはり原著がある翻訳が向いているなと思いました。

加賀山 :いまも実務翻訳は続けていますか?

片神 : いわゆる実務翻訳はおこなっていません。9年前から、ナショナルジオグラフィック日本版の雑誌の記事を月に1回と、学術論文誌サイエンス誌の記事を週に1回訳しています。ほかにもビジネスレターの翻訳、実用書やポピュラーサイエンスの下訳、チェッカーやリーディングの仕事も何度かしました。

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