在宅フリーランスの金融翻訳者、鈴木立哉さん Flavor
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<第126回>  全4ページ
フリーランスの魅力と責任

加賀山 :フリーランスの魅力というのは何でしょう。

鈴木 :人間関係を考えなくてもいい点ですね。

加賀山 :わかります。会社でのストレスの大半は人間関係ですからね。

鈴木 :会社員の給料の7割はストレス代だと思いませんか?(笑)。そういうストレスがない、ボスは自分であるというのは最高のメリットですが、代わりに、自由にともなう責任が発生する。時間を含めてすべてがコストですから、それを自分で管理しなければならない。ゴールデンウィークに休めば、会社員ならそのぶん時間給が上がる(働かなくても給料は不変)わけですが、フリーランスの場合には、たんに売上が減るだけです。
 そういうメリットとデメリットがあるので、フリーランス、とくにフリーランスの翻訳者には向き不向きがあると思います。これはやってみなくちゃわからない。

加賀山 :鈴木さんの場合、実際に黒字になって、「これはいける」と思ったのですか?

鈴木 :よく誤解されるのですが、「これはいける」と思ったのは、黒字になったからではありません。独立してから半年以上、朝から晩まで翻訳の勉強や仕事をしてなんの苦にもならなかったからです。

加賀山 :すると黒字化よりもっと早い時期だったのですね。フリーランスになって15年、仕事のやり方で変わったことはありますか?

鈴木 :2003年に仕事が途切れなくなってからも、クライアント開拓はしていました。請求書の送付先が5件を下まわったら新規開拓を自分に課していたのですが、2015年ごろからは、仕事を横に広げるより、いまいるクライアントととことんつき合い、「仕事を深める」ことに力を注ぐようになりました。
 それともうひとつ、文芸翻訳も習いはじめました。

加賀山 :やはり翻訳のブラッシュアップのためですか?

鈴木 :そうですね。実務翻訳では、まず「事実」ありきなので、経済レポートなどでは、原文を読むまえからだいたい何が書かれているかわかるのです。書き手がまちがっているときには、こちらで直すこともある。その専門性が評価されて仕事をもらっているとも言えるのですが、それをずっと続けていると、どうなるか──英文読解力が落ちてくるのです。少なくとも僕はそういう不安を抱きました。
 一方、文芸翻訳では、事実の正誤は別として、とりあえず作者の頭の中で成立している物語(原文)がある。原文がすべて。それを読んで理解し、訳すのが訓練になるのです。月に1回、有志の集まる文芸翻訳の勉強会に出席していますが、本当にためになります。

加賀山 :それも「仕事を深める」活動のひとつなのですね。ほかに何か昔と変わったことはありますか?

鈴木 :最初のころはよく条件面などで翻訳会社に物申していたのですが、ここ3〜4年は、コーディネーターを板挟みにしては気の毒だと思い、控えるようになりました。翻訳会社のコーディネーターというのは、古本屋の目利きのような人ではないかと思うんです。ある本をある人に勧めるように、人と仕事を結びつける。
 コミュニケーションをとるときにも、メールだけでなく、実際に会ったり電話をしたりという人間的なつき合いが大事だと思います。僕は取引先の金融機関や翻訳会社の担当者に、気になることがあったら遠慮なく電話してほしい、こちらの仕事が中断してもかまわない、とお願いしています。

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