フリーランス翻訳者 高橋友映さん|アメリア会員インタビュー
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アメリア会員インタビュー
高橋 友映さん

高橋 友映さん

金沢からファッションと金融の情報を発信

プロフィール

大学卒業後、外資系銀行で為替の法人営業を担当。退職後、古巣の先輩にレポート翻訳を頼まれたのをきっかけに、実務翻訳の道に入る。石川県の能登半島でのびのびと子育てをしながら金融翻訳の仕事を続けるが、某ブランドのトライアルに合格してからはファッション関連の翻訳が増え、今ではこの分野がメインに。子供の成長に伴い金沢に引っ越してからは、仕事に役立つ知識を得るためと言い訳しつつ香林坊のブティックをひやかすのがひそかな趣味となっている。

ファッションの英日翻訳と金融の日英翻訳

加賀山 :本日は金沢市にお住まいの翻訳家、高橋友映(たかはし ともえ)さんにオンラインでお話をうかがいます。プロフィールを拝見しますと、ファッションブランドのプレスリリースの翻訳が多いということですが……。

高橋 :ブランドの対外的なプレスリリースにかぎらず、社内資料を訳す仕事もあります。たとえば、春夏コレクションにどんな服やバッグがあって、素材が何で、金額がどのくらいで、といった情報を社員に知らせる内容です。

加賀山 :ブランドをいくつぐらい担当されているのですか?

高橋 :大きいブランドが5つです。大本は高級ブランドをいくつも持っているコングロマリットで、そこから派生する仕事をいろいろいただいています。それぞれのブランドにおなじみの広報部門のかたがいらっしゃって、そこから翻訳会社を介して仕事が入ってきます。
 この業界のひとつの特徴として、あるブランドから別のブランドへの転職が多いのですが、転職先のブランドからまた仕事をいただくこともあります。

加賀山 :そうして得意先が広がるのですね。それぞれのブランドに、デザイナーがたくさんいるわけですか?

高橋 :各ブランドには、たいてい「クリエイティブ・ディレクター」と呼ばれる主役のデザイナーがいまして、総監督を務めます。その下に、バッグ、服、靴、ジュエリーなど(それぞれに男物と女物があります)のデザイナーがいて、彼らがデザインしたものを総監督が取りまとめます。「デザイン・チーム」ということばがよく使われますが、そういうチームで商品化まで持っていくわけです。

加賀山 :プレスリリースなども、そのクリエイティブ・ディレクターが監修するのですか?

高橋 :プレスリリース自体は、ブランドの広報のかたたちがしっかり作っていると思いますが、もちろん、そのなかによくクリエイティブ・ディレクターのコメントが入っています。

加賀山 :ファッションというと、イタリアとかフランスというイメージですが、すべて英語から日本語の翻訳ですか?

高橋 :ブランド自体はイタリアやフランスがメインですが、そこから出る資料はすべて英語です。

加賀山 :ファッション関係の仕事は季節によって波がありますか? それとも途切れなく入ってきますか?

廃番になったミラチェアは今も大事な相棒です。

高橋 :新型コロナウイルスの影響で、いま少し減ってはいますが、それまでは年中無休でした。基本的には、春夏コレクションと秋冬コレクションという大きなふたつのイベントがあるので、それに関連した翻訳の仕事も増えます。しかし、ブランドのほうも通年でキャンペーンをしたり、話題になるものを出したりしていますから、その都度仕事は入ってきます。

加賀山 :やはりウイルスの影響はありました?

高橋 :幸い、思ったほどではありませんでした。第1波のときにはフランスもイタリアもたいへんで、会社はもちろん休業、コレクションもないし、デザイナーさんたちも家でワインを飲んでいる様子をSNSに上げたりしていて(笑)、どうなることかと思いましたが。いまのところ、それほど劇的な変化はなくて、少し業務縮小するとか、東京にある日本支社のオフィスから地方のブティックに出かけて教えていた研修がオンラインに変わったという程度です。

加賀山 :社員のかたたちは、研修などでけっこう集まる機会があったんでしょうか。

高橋 :あったようです。たとえば、アジア・太平洋地域の担当者が韓国の会場に集まって研修を受けるとか。それにともなって翻訳の大きな仕事が入ることもありましたが、その部分は縮小されました。
 ただ、最終的には、人々の消費行動がどう変わるかです。それについては、喉元すぎれば……でいずれ消費も戻ってくるのではないかと思っています。

加賀山 :ファッション関係の仕事が入ってくる翻訳会社は1社ですか?

高橋 :いまは2社です。

加賀山 :原文はPDFか何かで送られてくるのですか?

高橋 :原文はほとんどパワーポイントです。そこに書かれている英語をこちらでそのまま日本語で上書きしていき、できたものを各ブランドで社内チェックして、お客様向けや社員向けに使います。
 ほかに、ワードのファイルで来ることもありますし、商品説明などでは、たまにエクセルのファイルで大量に依頼されることもあります。エクセルの場合、セルごとに商品の写真と短い説明が入っている感じです。

加賀山 :ファッション以外のお仕事もありますか?

高橋 :ファッション関係は英日ですが、もうひとつの柱が日英翻訳で、そちらは金融とかIR(企業の投資家向け広報活動)、株主総会の招集通知といったものを英訳しています。

加賀山 :英訳のほうは、英語がかなり使えないとむずかしいという印象があるのですが、外国にお住まいだったとか?

高橋 :いいえ、高校時代と大学時代に留学経験はありますが、帰国子女ではありませんし、英訳の通信講座など特別な勉強もしていません。
 翻訳の仕事を20年続けて、英文の勘どころをある程度つかんでいることと、外資系金融機関に勤めた経験などが役立っていると思います。

加賀山 :英訳の仕事の依頼はまた別の翻訳会社からですか?

高橋 :はい、別の2〜3社からいただいています。

ブランドごとにことばもちがう

加賀山 :最初からファッション関係の翻訳をしたいと思われていたのですか?

高橋 :いいえ。大学卒業後に外資系の銀行で働いていましたので、翻訳の最初の仕事も金融関係でした。退職したあと、その銀行の先輩からレポートの翻訳を頼まれたのがきっかけになりました。会社を辞めて家にいるんだったら、やってくれないか、ということで(笑)。
 そんなわけで、当初は金融の仕事がメインでした。そのうち翻訳会社さんに登録して、別の金融機関のレポートや資料の翻訳の仕事もするようになったのですが、そのころたまたまファッション系のハンドバッグのトライアルを受けませんかという話をいただいて、合格しました。以来、そのブランドとは15年くらいおつき合いしています。そこから徐々に仕事の比重がファッションのほうに移ってきました。

加賀山 :ファッションブランドの翻訳の魅力は何でしょうか。

金沢の玄関口、鼓門。重厚かつ優美なデザインです。

高橋 :いちばんの魅力は、ふだんの生活で縁のない高級バッグや素敵なジュエリー、着ることがないようなドレスを資料で真っ先に見られることでしょうか。デザイナーがどういうインスピレーションを得てそういうものを作ったかということがわかるのも興味深いです。あと、この仕事をしていなければぜったい行かなかったようなブティックを東京や金沢で訪ねて、実物を確かめるのも楽しみですね。ああ、あれをこんなふうに売ってるんだ、とか(笑)。

加賀山 :ファッションはとくに最新のトレンドを押さえていないといけない分野ですよね。

高橋 :そうですね。原語で新しいことばもどんどん出てきますので、それをカタカナのまま訳したほうがいいのか、まだよく知られていなければ、ちょっと工夫したほうがいいのか、といったことを考えるのは楽しいです。

加賀山 :ファッションの用語というのは循環するんですか? つまり、何年かおきに同じことばが流行したりするのでしょうか。

高橋 :デザインは循環しますが、概念や用語はつねに新しくなると思います。日本語では、カタカナ化が進んでいます。たとえば、iconicという単語があって、昔は「〜ブランドを象徴する」とか、「〜ならではの」というふうに、なるべく形を変えて訳していました。でも、いまはそのまま「アイコニック」でつうじます。むしろ読み手のほうが慣れてきたので、「象徴的」などと訳すよりカタカナのほうがわかりやすくなっています。

加賀山 :なるほど、おもしろい。

高橋 :ファッションブランドは、表現が詩的ですからむずかしいところがあります。とくにプレスリリースなどのように対外的に発表するものは、ブランドのほうも表現にこだわるので、そういうものを訳すときには、ホームページなどをチェックして、世界観のようなものをつかんだり、独特のことば遣いを学んだりします。

加賀山 :ブランドによって、ことば遣いはちがいますか?

高橋 :ちがいますね。いまはSNSが盛んですから、どのブランドも、フェイスブックやインスタグラム、ラインなどにアカウントがあって、すごく鮮度のいい情報を出しています。そのなかでブランドごとにカラーがあって、訳すときにも参考になります。ときどき、直訳すぎるのではないかなと思うような記事もありますが……。

加賀山 :SNSの記事自体を訳すこともあるのですか?

高橋 :ふだんはありませんが、たとえば、クリスマスのホリデーコレクションとか、ギフトキャンペーンで、大量に商品の情報を訳さなければならないときに、お手伝いすることはあります。

翻訳を選んだわけ

加賀山 :外資系の銀行にお勤めだったということですが、東京に住んでおられたのですか?

高橋 :そうですね。生まれも育ちも東京で、結婚するまえは東京にいました。結婚後、出産を控え、子育てのことなども考えて、主人の実家がある石川県に移住したのです。実家は能登半島のほうなのですが、その後、息子が金沢の高校にかよいはじめまして、わたしと子供で金沢市に住むようになって1年ほどです。

加賀山 :別の銀行への転職ということも考えられたと思うのですが、翻訳という仕事を選ばれた理由は何でしょう。

能楽に使われる楽器の鼓をイメージしています。

高橋 :出産と子育てのために石川県に移住するというのが大前提でした。そこで、家にいながら英語のスキルを活かせる仕事は何だろうと考えたときに、翻訳という答えが出てきました。たまたま銀行の先輩からレポートの翻訳を頼まれたという後押しもありました。

加賀山 :職場を問わない翻訳という仕事の強みですね。お仕事の開拓などはされていますか?

高橋 :インターネットで調べて、登録翻訳者を募集している翻訳会社を探して応募したり、アメリアの求人に申しこんだりしています。
 ただ、おつき合いの長いところから声をかけていただくことも多くて、昔勤めた銀行にいらっしゃったかたが、わたしの訳したレポートを見て、転職後に新しい仕事の連絡をくださったこともありました。そういうご縁がよくあります。

加賀山 :人脈は大切ですね。いま翻訳で得られる収入は安定していますか?

高橋 :レポートの翻訳などが毎週、毎月といったかたちで定期的に入ってきますので、収入はある程度安定していますが、何かの事情で一気に仕事が来なくなることも考えられます。金融関係で言えば、リーマンショックとか、業績の悪化でレポートを出さなくなるとか、日本から撤退することすらありました。
 やはり何事もひとつに集中するのは好ましくありません。複数のブランド、複数の翻訳会社さんとおつき合いしておかないと、何かあったときに弱いということになりますね。

「翻訳会社」的な仕事も視野に

加賀山 :ふだん心がけているような勉強法などありますか?

高橋 :ファッションに関しては、SNSの情報を注意して見ています。自分が訳すブランドにかぎらず、広くファッションを扱っているアカウントもたくさんありますので、毎日チェックしています。
 あと、金融関係もそうですが、つねに調べ物を細かくします。原文を読んで、これは知らなかったということがあれば、インターネットなどでくわしく調べます。昔は大きな図書館や大使館に行かないとわからなかったようなことが、いまは地方にいても調べられますから便利ですね。

加賀山 :まったくです。いま訳しておられるのはファッションと金融ですが、これから取り組んでみたい分野はありますか?

高橋 :いままで、翻訳会社さんを通してではありますが翻訳者としては一人で仕事をしてきたので、いつか複数の翻訳者が緩くつながりながら助け合えるような形を作れたらと思っています。

加賀山 :何か共同で仕事をするような?

高橋 :コロナの影響も少しあるかもしれませんが、一人というのはいざという時に、経済的にも精神的にも不安だなと思うようになりました。家庭でも、子供は独り立ちしていきますが、今後は親の介護などもあるでしょうし、人生設計という面でフリーランスにはどうしても不安定な要素があります。

加賀山 :そういう意味では、出版翻訳は納期が長いから、実務と比べてもさらに不安定かもしれませんが(笑)、出版翻訳のほうにご興味はありませんか?

高橋 :私から見て、出版翻訳は書籍という形が残るところが魅力的ですね。大切に保管すれば、10年、20年先までちゃんと仕事が残るので。憧れはあって、フェロー・アカデミーのノンフィクションの通信講座を2回ほど受けたことがあります。

加賀山 :過去のインタビューでも、ふだんは実務翻訳をして、チャンスがあれば出版翻訳も、というかたがいらっしゃいました。
 これからファッション関係の翻訳をめざしたいというかたにアドバイスをいただけますか?

高橋 :ファッションにかぎった話ではありませんが、興味を持った分野の情報を手当たり次第に取り入れることが大切ではないでしょうか。ファッションの記事でも、ココ・シャネルの伝記でも、とにかくたくさん読んでいれば、自分の引き出しが広がります。
 そうしておけば、ある日ばっと仕事が入ったときに役に立つはずです。興味があるのなら、手を伸ばして、つねにそういうものに触れておくといいですね。

■とくにファッション関係のお話は、まさに私の知らない世界で、とても興味深くうかがいました。たしかに「詩的」ですから一筋縄ではいきませんが、やりがいもありそう。勉強になりました。

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