【アメリア】Flavor of the Month 36 番 由美子さん
読み物
Flavor of the Month
<第36回>  全5ページ


海外に住むことで修正された文化の枠組みを通して本と向き合う

坂田:イギリスの出版事情を教えてください。少し前には、イギリスで流行ったハリー・ポッターが日本でも大人気になりました。いま、イギリスでは、どんな本、どんなジャンルが注目されていますか?

:イギリスでもダントツの大ベストセラーは日本と同じ、『ハリー・ポッター』と『ダ・ヴィンチ・コード』です。実用書ではジェイミー・オリヴァーといった有名シェフの料理本などが常時ベストセラー入りしています。意外に思われるかもしれませんが、イギリスではグルメブームが定着しつつある状況で、多くの人が美食に関心を持っているようです。それからどの分類に入るかわかりませんが、数独の本もシリーズで大人気です(笑)。日本と比べるとビジネス書よりも文学、エンターテイメント系の人気が強いように感じます。単行本の値段が非常に高いため、書店に並ぶ小説のほとんどは、刊行後半年ほどで出されるペーパーバックになります。その中で売れ筋のものは二、三割ディスカウントされるためにますます売り上げが伸びる、という図式があるようです。


坂田
:英語以外の書籍についてはいかがですか?

:イギリスで出版される書籍の約3%という数字が出ており、翻訳書が占める割合はかなり少ない状況です。“エーコ”や“コエーリョ”といった一部有名作家に関しては、翻訳物でも国内人気作家の小説と同じ地位を獲得していますが、その他の作家は日本に比べても紹介される機会が少ないように思います。海外在住のイギリス人作家が書くエッセイや小説はよく見かけるので、英語圏以外の国に興味がないわけではないようなのですが……。



坂田:イギリスでも読まれている日本の小説やあるいは日本の映画はありますか?

:日本の小説も映画も、特にコンテンポラリーの作品が注目されています。小説では村上春樹が一番読まれているのではないでしょうか。新作が出るたびに翻訳されていますし、たいていどこの書店にも作品が並んでいます。それから今年よく見かけたのは、米国でエドガー賞の候補にもなった桐野夏生の『OUT』です。その他には、よしもとばなな、村上龍、クラシックなものでは吉川英治の時代小説、三島由紀夫、谷崎潤一郎などが知られているようです。映画は宮崎駿や北野武監督作品、『リング』などです。

坂田:番さんは留学を決めた理由として、“現地の文化に触れながら翻訳の勉強をしたいと思った”とおっしゃいましたが、その成果はいかがでしたか?

:フランスに4年、イギリスに1年程度の滞在なので文化理解度もまだまだ浅いのですが、それでも意義ある経験をいくつか得ることができました。対象国の社会システムや国民性を肌で感じられるのは貴重ですし、言語の持つ雰囲気や幅のようなものは、不特定多数の人たちの話す言葉に触れることでぐっと広がりました。また、現地に行く前に自分が持っていたイメージにどれだけ偏りがあったかも思い知らされました。相手の国に対する思い入れや事前知識があるほど、実体験で感じることとのギャップは出てくるものではないかと思います。自分の中で修正された“文化の枠組み”を通して読むと、特に社会派小説、ユーモア小説などはよりよく理解できるようになったと感じます。

坂田::最後に、番さんの今後の夢、目標などをお聞かせください。

:当面の目標は、早く自分なりの仕事ペースを確立すること、そしてどんどん企画を提案していけるような翻訳者になることです。英国滞在は家人の仕事の都合なので、また国を移ることがあるかもしれませんが、そのときはいろいろな国の文化を知るチャンスと思って、仕事にも生かしていければいいなと考えています。

坂田:ぜひ、現地からたくさんの情報を発信してください。楽しみにしています。どうもありがとうございました。

 
    ■2回にわたって海外で活躍するアメリア会員をご紹介しました。いかがでしたか。翻訳者として、海外に住むことのメリットもあれば、逆に日本に住んでいないことのデメリットもあるようです。それぞれ、自分のおかれた環境を十分に活用することが大切なのですね。
 
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