【アメリア】Flavor of the Month 39 中尾裕子さん
読み物
Flavor of the Month
<第39回>  全6ページ


企画持ち込み成功の秘訣は、緻密な出版社研究にあり!?

坂田:中尾さんがアメリアに入会なさったのはいつ頃ですか?

中尾:アメリアに入会したのは2年前の夏です。インターネットで検索をしている時に偶然出会いました。求人募集の中に、フランス語出版翻訳のトライアルを見つけて、「これだ!」と思いました。どうしてもトライアルを受けたくて、即入会。そのトライアルは残念ながら駄目でしたが、その後もフランス語の案件を見つけてはチャレンジしています。求人情報以外では「読み物」コーナーが好きです。特に、「伝・近藤のトライアル現場主義!」。現場からの声を参考にしています!

坂田:実は、この春、中尾さん初の訳書が刊行されるんですよね。おめでとうございます!

中尾:ありがとうございます。これも、アメリアと出会えたおかげです。「出版持込ステーション」に応募して、採用が決まったんです。

坂田:「出版持込ステーション」が誕生したのが2005年4月ですから、そろそろ1年。この春は何冊かここから生まれた本が刊行されるようです。中尾さんの本も、そのうちの1冊ですね。

中尾:そうなんです。最初に「出版持込ステーション」を見つけた時は、今まで曖昧な夢だった「出版翻訳」が具体化された、「新しい扉が開いた!」という喜びの気持ちでいっぱいになりました。「出版翻訳はなかなか新人の入っていけない狭き門」というイメージが払拭された、とでも言いましょうか。素敵な近道を見つけた気分でした。ただ、実務に追われていたので、行動を起せないまま6月に……。でもその間、時間を見つけては準備を進めていました。

坂田:準備というと、具体的にはどのようなことですか?

中尾:まず、「出版持込ステーション」のサイトに行き、参加出版社すべてを書き出しました。そして、ノートの見開きの左側に出版社が求める本のタイプやジャンル、右側には出版社のサイトの検索結果ーー具体的には、既に出版された洋書ではどのようなジャンルの本が多いか、邦書ではどんなものに力を入れているかを書き出したというわけです。こうした下調べで、各出版社の社風がよく判りました。

坂田:実際に企画を出したのは、いつごろ、どのような作品ですか?

中尾:「事実は小説より奇なり」という言葉がありますが、私は、実話のドキュメンタリーや実話を元にした小説が大好きなんです。昨年の6月のある夜、何気なく見ていたテレビ番組に釘付けになりました。それは、ノンフィクション本を元に再構成されたドラマで、父親のドメスティック・バイオレンスのために運命を翻弄されてしまった家族の物語でした。ちょうどアメリアの「出版持込ステーション」に応募する企画を探して、あてもなく書店や図書館を訪ねていた頃だったので、さっそく書店に出向き、2週間後に発売というその本を、迷わず予約しました。

坂田:新刊本だったのですね。2週間後に読んだ感想は?

中尾:本を手に入れた、その日のうちに全部読んでしまいました。自身の過ちを素直な視点で見つめる著者の母キャロルの文章は、とても好感が持てるものでした。後半部、特に少年の手記の登場するあたりは非常に残虐な描写が多く、話題性があるとも感じました。もちろんそれだけではなく、母キャロルの視点には、困難に立ち向かっていく強さや希望、家族愛など、ポジティブな側面が見られた点が、企画書作成に踏み切った理由です。ただ、キャロルがプロテスタント信者で、それを受けた宗教的な見解が日本人に受け入れられるかどうか、そのあたりが少し気にはなったのですが。

坂田:「出版持込ステーション」に応募して、すぐに反応はありましたか?

中尾:すぐに1社からコンタクトをいただきましたが、最初の評価は「残虐すぎる」というものでした。怖いもの見たさの話題性はあっても、社の読者層に会わないというのがお断りのメッセージでした。かなりの長文でご評価・評論をしていただき、とても嬉しく拝見しました。これが7月の終わりのことです。

坂田:その後はいかがでしたか?

中尾:2社目も見送りとなり、3社目にお話をいただいたのが、今回、出版が決まっている竹書房さんでした。竹書房さんは、まさにその「残虐性」に出版の可能性を見出してくださったようです。私は翻訳者としても手を挙げていましたが、結局、共訳ということで翻訳させていただくことになりました。11月に版権空きの確認がとれ、1月末に翻訳原稿を納品するというスケジュールで作業が始まりました。

坂田:共訳というのは、どのように分担したのですか?

中尾:共訳と言っても、私の立場は全部の「下訳」です。もう一人のプロの翻訳家の方が私の稚訳をリライトしてくださいました。魅力的だったのは、担当者の方が「下訳」という位置づけをしなかったこと。下訳ですと、名前が出ない場合がほとんどですよね。今回は「共訳」という扱いなので、表紙に名前も出る。これがOKの即答をした一番の理由でした。新人の私にこのような配慮をしていただけるとは、本当にラッキーだったと思います。

坂田:海外在住ということで、出版社とのやりとりはすべてインターネットですよね。不安や不便はありませんでしたか?

中尾:そうした不安はまったくありませんでした。いつも、どんなメールにも丁寧で迅速なお返事をいただいていましたので。翻訳でのやり取りでもいつも感じるのですが、メールという情報通信手段は、意外にその人の人柄が出るものだと思います。タイプミスの多いメッセージだと「仕事がいい加減そうな人だ」という印象を持ちますし、たとえ一言のメッセージでもてきぱきとした業務連絡ができると、手際よく連絡が取れてとてもやりやすい、といった風に。それと、私ができるだけ心がけているのは「絶対に返事を書く」ということ。たとえそれが単なる業務連絡で返事の必要ないものでも、メールのやり取りを終えるのはいつも私のメッセージであるように心がけています。

坂田:初の訳書の発売日は、もう決まっていますか?

中尾:はい。2006年4月28日発売予定で、邦題は『父親に囚われて-ある少年が受けた虐待とある母に襲いかかった悲劇の物語-』に決定しました。
(追記:『この地獄から、ぼくを助けて』というタイトルで刊行されました)

坂田:おめでとうございます。楽しみですね!

中尾:ありがとうございます!

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