【アメリア】Flavor of the Month 48 三浦和子さん
読み物
Flavor of the Month
<第48回>  全4ページ


目標意識を持って計画的に5年間の勉強を

坂田:5年間どのような勉強をしたのですか?

三浦:最初の1年間は基礎から勉強したいと考え、まず光野多惠子先生の文芸基礎講座を半年間受講しました。若い頃に挫折していますし、人生最後のチャンスだと身構えていましたね。入学時は、叩いたら音がするぐらいコチコチになっていたような気もします(笑)。

坂田:初めて受けた授業のこと、覚えていますか?

三浦:はい。ドキドキしながら最初の授業を受けましたが、光野先生の翻訳に対する熱意、それを生徒に教えたいというお気持ちが直に伝わってくる授業でした。調べ物の仕方、辞書、それにファックスの書き方まで指導してくださって、提出した原稿は真っ赤になって返ってきました。また児童文学を中心に訳されていますが、その感性の鋭さにも驚きました。とにかく、自分のいい加減な態度が恥ずかしくなるような迫力でした。根本的な考え方の間違いを厳しく指摘されたこともありがたかったです。

坂田:清水の舞台から飛び降りる覚悟での翻訳再出発だったとおっしゃいましたが、半年間の授業で、成果は感じられましたか?

三浦:はい。本当に熱心に指導していただき、最後に成績優秀賞をいただいたことが大きな励みになりました。授業料5000円の免除券をいただき、次の半年間は越前敏弥先生の文芸総合演習講座を取ったのですが、翻訳の面白さとともに仕事の厳しさを教えられました。

坂田:翻訳の面白さというと?

三浦:例えば、先生が訳されたロバート・ゴダードの『石に刻まれた時間』の一部が課題になったときのことです。もちろん訳書が出る前ですが。初心者の私は四苦八苦、やっとの思いで課題を仕上げていきました。そして先生の訳例を見せていただき、ため息が……。原文の雰囲気まで見事に日本語に移し変えられた訳文を読んで、翻訳によって原作の世界を再現し、読者に紹介できる面白さを実感しました。

坂田:では、仕事の厳しさというと?

三浦:見事な訳文を読んで、面白さを実感したと同時に、読者を裏切らない誠実さが求められる仕事だと思いました。越前先生は「誤訳をなくす文法特訓」にも力を入れておられますので、正確な解釈という基本の大切さも教えられました。それから雑談で、運動する暇もない超多忙生活の話をされていました。また仕事獲得のためには社交も必要と言われて、内気な私は絶望的にもなりました。

坂田:今は実際にお仕事をなさっていますが、内気を克服できたということですか?

三浦:そうですね。ゼミでは毎週、授業後に食事会があり、それにも参加しているうちに、内気だったはずの私も積極的に喋れるようになってきました。翻訳という共通の関心をもつ仲間と喋るのはとても楽しいものです。これから勉強を始めようと思われている方も、できれば通学講座に通って友達を作ってください。楽しいですよ。学校は勉強するだけでなく、いろんな方と付き合える場でもありましたから、その意味でもよかったと思います。というわけで、お仕事でコーディネーターや出版社の方達とお話しするときも、話題は翻訳や本のことですし、楽しく喋らせていただきました。心配することもなかったという次第です。

坂田:ゼミの後の食事会というのは、どんな雰囲気なんですか?

三浦:先生も参加されて、とってもアットホームな雰囲気です。ゼミになるとお付き合いの長い方が多くなりますし、しゃべりたいことをしゃべるという感じになりますね。もちろん翻訳や本の話も出ますし、先輩の翻訳家が参加されるときにはいろいろなお話を聞けます。とくに新入生歓迎会などは飲み会になりますので、ワイワイと楽しくやってます。東京にいたときは、とくに親しい人と映画&ランチなんていうお付き合いもしていたのですが、今は時々上京したときにお話ししたり、メールでおしゃべりしたりです。通学講座のお陰で翻訳のことを話せる友達が何人もできたのが嬉しいです。いろんな世代の方とお付き合いできるのもいいですね。

坂田:そうですか。“案ずるより産む”が易しですね。その後、どうなさいましたか?

三浦:1年間勉強したところで、自分の分野を選ばなくてはなりません。自分は何に向いているんだろうか。いろいろ考えた末、児童文学の道はあまりにも遠いと感じたので、ノンフィクション翻訳を勉強することに決めました。

坂田:児童文学の道が遠く、ノンフィクションのほうがまだ近いと感じた理由は?

三浦:児童文学は大好きなのですが、言葉の選び方が特に難しい、と感じたんです。ノンフィクションは、いろいろな知識を得ることに関心のある自分に向いているみたいで、訳していると本当に楽しいのです。翻訳のためにインターネットで調べたり、図書館で調べたり、そんな作業も楽しみのひとつです。それに仕事が多いと聞いたこともありました。

坂田:そうですか。自分にとっての向き不向きを見極めたのですね。

三浦:はい。そこで2年目は仙名紀先生のノンフィクション講座を受講しました。アフリカの旅行記、ヒラリー・クリントンの自伝などが課題で、とても刺激的で楽しい授業でした。その受講中にアメリア翻訳トライアスロンの出版部門で10位に入賞できたことも嬉しい思い出です。

坂田:翻訳トライアスロンで入賞なさったんですか。

三浦:はい。2003年の翻訳トライアスロンです。情報誌『Amelia』に自分の名前を見つけたときは、本当に嬉しかったです。

坂田:では、着実に翻訳力を伸ばしていったという感じですね。

三浦:ところが、2年目修了の時点で壁にぶつかってしまったんです。ピサの斜塔の構造を説明する箇所があったのですが、これが難しい。とにかく訳すことはできても、自然な日本語にならないのです。原文と日本語の間の溝をどう埋めるか、どの程度噛み砕いて自然な日本語にするか、という壁が立ちはだかりました。ノンフィクションという分野を決める前に翻訳自体の勉強をしなおさなければ、という気持ちでした。そこで3年目からは、少人数指導で評判の中村凪子先生のミステリーゼミに入れていただきました。中村先生はノンフィクション翻訳も手がけておられますが、先生のご指導を受けたことが転機になりました。それまでも熱心に勉強していたつもりだったのですが、口だけで努力が足りないと厳しく指摘されました。ドンピシャリ、その通りでした。自分に甘えていたのです。

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